開発チームは、作製したMBI薄膜について、高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリーで放射光X線回折測定を行った。この結果、単一の回折スポット(赤点線円)を観測することができ、作成した薄膜が単結晶であることを確認した。また、分子は水素結合により鎖状に連なるとともに、基板表面に対して垂直と水平の2方向に配列していることが分かった。そして、現れた自発分極Pは基板表面に垂直な向きから45度傾いた状態であることを解明した。
基板平面に垂直な方向の分極成分を持つことから、電極/強誘電体/電極を順番に重ねた積層型デバイスを作製し、上部と下部の電極間に電圧を印加すると、分極反転を行える可能性があることが分かった。
さらに、膜厚約1μmの単結晶薄膜を用いて、キャパシタ型のデバイス構造を作製し、P-Eヒステリシスを測定した。事前に熱処理などを行わなくても、良好なヒステリシスループ特性を示した。しかも、走査周波数10Hzで、平均3〜4Vときわめて小さい電圧で分極反転可能なデバイスが得られることも実証することができたという。
10〜1000Hzの掃引速度で分極反転の繰り返し耐久性も検証した。走査周波数が1000Hzでは、数十万回まで強誘電特性を保持できることが分かった。電極構造の最適化により耐久性はさらに向上するものと観測される。
圧電応答顕微鏡を使って、有機強誘電体薄膜の分極反転がミクロ領域でどのように発生しているかも分析した。膜厚約1μmの薄膜に、10〜1000msの範囲の中でさまざまな時間を設定して+20Vを印加した。そうすると、印加した時間によってサイズの異なる円形の分極反転ドメインが結晶表面に書き込まれることが分かった。ドメインのサイズは、最小が直径500nmで、電圧をかけた時間に対して対数関数的に増加した。この分極反転ドメインは、室温大気下で40時間以上も安定に保持された。また、圧電応答顕微鏡像の位相成分から、分極方向は90度回転ではなく180度反転であることが分かった。
研究チームは、今回の成果を活用しつつ、従来の金属配線や半導体薄膜の印刷技術と組み合わせることで、これからは全ての工程に印刷技術を適用した強誘電体メモリや不揮発トランジスタといった電子デバイスの作製に取り組んで行く予定である。
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