さて、ここから後半になります。この連載の後半は、「私の身の回りの出来事」を使った、「数式ゼロ」のAI解説になります。
本日は、1961年に提唱され(私ですら生まれていない)、そして、オークション理論の基礎中の基礎でありながら、今なお現役で輝き続ける、そして、久々に私を震撼(しんかん)させた、Vickrey-Clarke-Groves(VCG)メカニズムをご紹介します。
―― と、その前にもう一度、オークションの意義についてまとめてみたいと思います、
「オークション理論」の凄さは、"自己満足"という自分だけの価値を「数値」で算出した上で、価値観がバラバラな個々人の中において、その数値を客観的な評価値に変換し、さらにその評価値の合計値の最大化を行うという、かなりムチャな試みを、論理的かつ数学的に成立させているという点にあると考えています。
えーっと、私が何を言っているか分からないと思いますので、具体例で説明を試みます。そうですね、例えば、とある女性アイドルとの1日デート権が売り出されていると考えてみましょう。
この、女性アイドルとの一日デート権の権利の効力には、
あるいは、
ここで重要なことは、そのアイドルとの一日デート権の価値基準が、個人によってバラバラに異なるということです。そして、その一日デート権の価格は、その価値基準に基づいて、個人的かつ利己的に決定され、外部の意見(客観的な評価)を全く必要としない点に特徴があります。
もちろん、この個人的かつ利己的な評価に基づくオークションは、負けた時よりも、勝った時の方が、ひどい目に遭うことがあります。これが「勝者の呪い」です。
さて、オークションには、このようなリスクがあることを踏まえた上で、「オークション理論」が果すべき役割についてお話します。
「オークション理論」とは、高値で落札させることが目的ではありません(むしろ、その逆っぽい気がします)。
上記の、#1の「個人合理性」については、上記で述べた通り、各個人の評価基準に基づいて、自分が「もうかった」と思えること、という理解で良いのですが、すごいのは#2の「パレート最適性」です。「パレート最適性」とは、乱暴に説明すると、「これ以上良くすることはできません」という状態にまで追い込むことができるということです。
そして、もっとすごいのが#3の「インセンティブ両立性」です。ちょっと信じられないかもしれませんが、自分が、利益を獲るために「作為」の入札を行うと、その「作為」が自分への呪い(不利益)となって降りかかってくるという、脅威のメカニズムです。
これは、オークション入札を行う者は、全て「正直」であることが最適戦略になる、「正直者が必ず得をする」を実現するものなのです。
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