MRAMのデータ書き込みでは、磁気トンネル接合(MTJ)の磁化の方向を平行(P)状態から反平行(AP)状態へ、あるいはその逆へ変更することで実施する。これを「磁化反転」と呼ぶ。磁化反転は、電子スピンの注入によって起こす。
電子のスピンは、上向き、あるいは下向きの2つの磁気モーメントを発生する。普通の材料では上向きスピンの電子と下向きスピンの電子は同数(厳密には「状態密度」が同じ)なので、全体としては磁気モーメントは打ち消されてゼロとなる。
ところが強磁性体では、どちらかのスピンを備えた電子が多数となる、「電子スピン偏極」と呼ぶ状態を起こせる(詳しくは本コラムの既報[=MRAMの記憶素子「磁気トンネル接合」]を参照)。電子スピン偏極の結果が、強磁性体材料の「磁化」として見える。
ここで電子スピン偏極を起こした電子流を磁気トンネル接合に大量に流し込むことを考える。すると自由層では磁化を生じている電子スピンと、外部から流し込まれた電子スピンの間で相互作用(厳密には「交換相互作用」と呼ぶ)が発生し、両者の磁化方向が反対であるときには、磁化を反転させるようなトルクが磁気モーメントに働く。そして磁化が反転する。このようにして、「磁化反転」を起こす。そしてこの仕組みを「STT(Spin Transfer Torque)」あるいは「スピン注入トルク」と呼ぶ。
また磁化の方向には、磁気トンネル接合(MTJ)の薄膜層に対して平行な方向(in-plane)と垂直な方向(perpendicular)がある。GLOBALFOUNDRIESが提供するMRAMは、垂直な方向の磁化をスピン注入トルクによって反転させる磁気トンネル接合を採用しているので、「pSTT-MRAM」と呼ぶ。
(次回に続く)
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スピン注入型MRAMの不都合な真実Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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