では、車載プロセッサにおいてFPGAの利点はどの部分になるのか。Tu氏は、GPUとASICのどちらにもないFPGAの特長として、低レイテンシかつ高い電力性能比とスケーラブルな拡張性を挙げた。
Tu氏は深層学習(ディープラーニング)で推論を行う場合を例示。GPUはSIMDによるデータバッチの並列処理が可能であり、大量のバッチを一度に処理できるスループットの高さが強みとなるが、全てのデータバッチのロードを待ってから演算を処理するするためレイテンシが発生する。また、少量のバッチでは演算効率が悪化し電力性能比も低下するという。
FPGAは「それぞれのデータ構造に応じてバッチを使用せずに処理できる」(Tu氏)ため、高スループットで逐次処理を行うことができる。これにより、GPUと比較して低レイテンシかつ演算効率を高く維持することが可能となった。GPUとFPGAにおけるレイテンシの差については、「ニューラルネットワークのアルゴリズムによって異なるため、定量的な説明が難しいが、リアルタイムな推論処理を求めていたDaimlerに採用されたことがその証明になる」(Tu氏)と説明している。
さらに、Tu氏はGPUやASICについて「ブラックボックスな製品が多く、OEM独自の差別化要因の実装ができないことや、安全性に関わる要素をOEMが独自に検証することが困難である」ことを課題として示す。この点について、同社製品はオープンであるためOEMやTier1の要求事項に対して柔軟に対応できると強調した。
また、回路構成が可変なFPGAの特長を生かした車載ソリューションも提供する。「Dynamic Function eXchange(DFX)」は、その時々の運転場面に応じて回路構成を変更し異なる運転支援機能を提供できる。「パーシャルリコンフィギュレーション」と呼ばれる機能がDFXのベースとなっている。
Tu氏は同機能について、「例えば、レベル3自動運転時にドライバーが運転席に座っている場合は、ハードウェアをドライバーモニタリング機能に設定し、ドライバーが車から離れた場合には、ハードウェアの回路を書き換え自動バレーパーキング機能を提供できるようにする」と説明する。DFXによる回路変更の切り替え時間は「ミリ秒単位」(Tu氏)。ASICでは異なるハードウェアに実装せざるを得ない各種自動運転機能もFPGAを用いることでデバイスを統合でき、システムコスト削減とハードウェアの小型軽量化に貢献するという。
また、OTA(Over the Air)を用いてソフトウェアだけでなくハードウェアのアップデートを行う「OTAシリコン」によって、車載コア部分の新機能追加やミッションクリティカルな領域の更新にも対応するとした。
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