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» 2018年12月28日 10時30分 公開

政府の地雷? 「若者人材育成」から読み解くひきこもり問題世界を「数字」で回してみよう(54) 働き方改革(13)(9/10 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

なぜ、私たちは「ひきこもり」を憎んでしまうのか

 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】政府が主導する「働き方改革」の項目の一つである、「女性・若者人材育成」の中の、「若者」に関する(i)「働き方改革実行計画」から逆算して見えてきた問題の正体、(ii)「スキル」と呼ばれるモノの明確化、そして、(iii)「ニート/ひきこもり」について ―― 特に私たちのマインド側から ―― 把握を試みてみました。

【2】「働き方改革実行計画」の中から"若者"と記載された事項から5つの課題を明らかにした上で、この問題の根っことなる直近の問題を、「フリーター/ニート/ひきこもり」と「ブラック企業」の2つであると予想し、今回は前者について検討しました。

【3】「フリーター/ニート/ひきこもり」に共通する問題として、「スキル問題」があることを指摘しました。「スキル問題」とは、雇用期間の制限、または、無職によって、いつまでも高度で希少価値の高いスキルを取得することができない問題であり、「最初の就職でのスキル取得に失敗すると、そこからの復活戦が恐ろしく難しい」ことを指摘しました。

【4】しかし、その「スキル」というものの実体が実に曖昧であり、明文化、定量化できるものになっていない上に、本人の努力と本人の資質(才能)を分離せずに論じない抽象論が横行している現状を明らかにしました。さらに、客観的なスキルとは「パソコンのWordやExcel」「TOEICのスコア」程度でしか定量化できないという江端の持論を展開しました。

【5】「働き方改革実行計画」には、「ニート」「ひきこもり」に対する記載が一切ないことが気になり「ひきこもり」について調べてみたところ、100万人オーダーの対象者がいることが分かりました。そして「ひきこもり」に対する、世間のすさまじい憎悪を目の当たりにして、その憎悪のロジックを分析した結果、『"憎悪"は、自己の日常の"我慢"とそれに対する"不公平感"から発生する』と結論付けました。

【6】「ひきこもり」の歴史をレビューして、この問題が、発生当時は子どもの問題だったのが、2000年頃から大人の領域にまで拡大してきたことが分かりました。そして、過去2回の「就職氷河期」によって、上記のスキル問題が、数十万人のオーダーで発生していることを確認しました。

【7】「ひきこもり」の発生、理由、成立要件を明らかにした上で、「ひきこもり」が、「社会」「親」「自分自身」の3者から攻撃を受け続ける過酷なものであることを解説しました。その上で、この問題に対する江端からの提言を行いました。


 以上です。



 では、最後に、「なぜ私たちは、これほどまでに「ひきこもり」を憎むのか」に応える、一つの考え方を、システムエンジニアである江端から一言申し上げたいと思います。

 前述した通り、私たちの社会は、一つの大きなシステムです。システムというのは、システムの目的に「無関係」あるいは「無駄」ように見えるモノも含めて、一個のシステムなのです。

 これらの、一見「無関係」だったり「無駄」だったりするモノが、実はシステム全体を円滑に動かす、重要なシステム構成要素として機能することは、体内の免疫システムから、社会インフラシステムに至るまで、全てのシステムで通じるシステム論の常識です。

 もし、強くて、人様に迷惑を掛けない人間だけで構成されるシステムであれば、セーフネット(安全や安心を提供するための仕組み(社会システムの場合は社会保障制度))は必要ないかもしれませんが、そのようなシステムは必ず自壊します。

 なぜなら、システムは、その一部を壊しながら運用される続けるものだからです。壊れる余地を残さないシステムは、システムとしては不完全であり、危険ですらあります。

 セーフネットは、弱くて、人様に迷惑を掛けているかもしれない人を保護しているのかもしれませんが、実際のところ、あなたはそんなことは忘れてしまって良いのです。

 なぜなら―― ニート/ひきこもりの人たちを守るシステムの機能の本当の目的は、「あなた」を守る安全装置だからです

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