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政府の地雷? 「若者人材育成」から読み解くひきこもり問題世界を「数字」で回してみよう(54) 働き方改革(13)(10/10 ページ)

» 2018年12月28日 10時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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ウエットで身内びいきでイモーショナルで過保護な父親……

後輩:「前回まで続いた”介護シリーズ”も含めて感じていたことなのですが、なんか最近、『江端さんらしくない』と感じます」

江端:「というと?」

後輩:「江端さんのこの連載コラムは、人々の未来の夢や希望を、数字とロジックで打ち砕き、絶望という名の断崖絶壁から突き落とす、というものですよね」

江端:「そんな趣旨の連載ではない」

後輩:「しかるにですね、前回の”介護シリーズ”にしても、今回から始まった”若者シリーズ”にしても、そこには、社会的弱者に対する、生暖かいというか、生煮えというか、実に江端さんらしくない、同情と共感と救済の論理が展開されていて ―― はっきり言って、気持ち悪い

江端:「散々だな」

後輩:「でね、私なりに考えてみたのですよ。何で、江端さんが、こんな似合わないコラムを書いているのか、と」

江端:「何だ」

後輩:「まず”介護シリーズ”ですが、これはお父上とお母上を思う、つらい日々の気持から発露しているものである、ということは簡単に推測できました」

江端:「で?」

後輩:「で、今回の、”若者シリーズ”ですよ。これが良く分からなかったのですが……ちなみに、江端さんの娘さん、今、おいくつでしたっけ?

江端:「……長女は、来年から本格的な就活に突入する ―― そういう年齢だ」

後輩:「ああ、やっぱりね。つまり、そういうことですよ」

江端:「どういうことだ?」

後輩:「江端さん。自分で気がついていないんですか? 江端さんは、今回のコラムで、娘さんが陥いるかもしれない、ディストピアの一つを予測したんですよ」

江端:「え?」

後輩:『フリーター/ニート/ひきこもり』『ブラック企業』『スキル』、何もかもが、将来に発生し得る娘さんのトラブルの内容であり、そして、今回のコラムはそれに対する弁護や救済の理論になっているじゃないですか

江端:「あー……、言われてみれば、確かに、そうかもしれない」

後輩:「江端さんは、人間を社会システムの構成要素の一つと考えて、人工知能の制御対象の一つにしたい、とか言っていましたよね ―― ええっと、確か『アナログハック』でしたっけ*)

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江端:「ちょっと待て。それは完全なウソで、その上、あまりにも悪意に満ちているぞ」

後輩:「『人間を社会システムの構成要素として制御する』ですか? ダメですね。江端さんには、そんなことを実行できるだけの器はありませんよ」

江端:「……」

後輩:「結局のところ、江端さんは、怜悧(れいり)でロジカルな研究員を装いながら、実際のところは、ウエットで、身内びいきで、イモーショナルで、その辺に転がっている、孝行な息子であり、過保護な父親であり、凡庸な小市民なんですよね。ええ、私は最初から知っていましたとも」

江端:「まあ、仮に私がそういうイモーショナルな人間であったとしても、それは、悪いことではないだろう?」

後輩:「いや、悪いですよ。このコラムの執筆担当者としては、『最悪』と断じてもいいくらいです」

江端:「なんで?」

後輩:「江端さんは、身内が関わっている世界観と、そうでない世界観との取り扱いが、180度逆転しているからですよ。このコラムは、『世界を「数字」で回してみよう』です。このコラムは、人間の恣意を完全に排して、物事を数値だけで客観的に見ようという高い理念から始められた連載だったはずです

江端:「……お前。今まで一度だって、EE Times Japanのミーティングに、参加したことないだろうが」

後輩:当初の私たちの高い理念に、『身内びいき』などという低レベルのイモーショナルを入れられては、困るんですよ。コラムの品質に関わる話なんですよ、分かっていますか? 江端さん」

江端:「だからお前は、編集長(竹本さん)でも編集担当者(村尾さん)でもないだろうが!」

後輩:「まあ、いいです。今回は、特例として入稿を許可します。でも今後は、当初の理念を忘れずに、ちゃんと精進してくださいよ」

江端:「だ・か・ら・!!」

後輩:「ちなみに、江端さん、今回、数値シミュレーションをサボりましたね。私が見落としていると思ったら、大間違いですよ」

江端:「(ギク……!)え、いや、あのだなぁ。『ひきこもり』の時間軸方向の心理状態のモデル化まではしたんだよ。いや本当。本当だってば。ちゃんと証拠(コード)も出せるから。でも、計算結果が、あまりもショボくて……」


⇒「世界を「数字」で回してみよう」連載バックナンバー一覧



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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