新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、出力が8Wの深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器を、スペクトロニクスと共同で開発した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年3月、出力が8Wと極めて大きい波長266nmの深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器を、スペクトロニクスと共同で開発したと発表した。
深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器は、高い吸収特性と小さい集光径により、既存のレーザーに比べ微細な加工が可能である。また、ピコ秒という極めて短い時間で処理できるため、材料が熱の影響を受けにくい、などの特長がある。ただ、出力が小さいため、商用レベルでは生産性に課題があったという。
今回、「近赤外レーザー発生技術」と「高効率波長変換技術」を新たに開発、深紫外ピコ秒パルスレーザー発振器で出力8Wと、世界最高レベルを達成した。スペクトロニクスは、電子機器や自動車、航空・宇宙機器に向けた部品や素材の加工用として、パルス幅が15ピコ秒以下の深紫外短パルスレーザー発振器を製品化し、販売を始めた。
近赤外レーザー部は、波長1064nmのパルス光を生成するパルス発生部と、これを増幅するための光パルス増幅部で構成される。パルス発生部にはDFB半導体レーザーを採用し、高速なパルス電流を注入することによって、15ピコ秒以下のパルス光を発生させることに成功した。
具体的には、新開発の高速電流ドライバーを用いて半導体レーザーのパルスを変調して緩和振動を発生させ、電流制御によって第2ピーク以降を抑圧する「ゲインスイッチ駆動法」を採用した。ピコ秒パルス発生部の形状は手のひらサイズと小さい。また、光パルス増幅部は、ファイバーレーザー技術と固体レーザー技術を融合した独自の技術により、狭帯スペクトルを維持しつつ、80dB以上の増幅を可能にしている。
波長変換結晶劣化に伴う出力低下を抑える波長変換技術も新たに開発した。CLBO結晶による中間波長(可視レーザー)から深紫外レーザーを発生させる際の変換効率は、従来20%程度であった。これに対し新開発の近赤外レーザー技術を用いると、変換効率は60%を超えるという。
開発した波長変換部について最適化設計を行った。そして結晶劣化を抑制できる条件下で動作させたところ、波長266nm平均出力10Wの連続動作で1万時間を達成した。繰り返し周波数は200kHz、パルス幅は10ピコ秒である。CLBO結晶のシフト技術は用いていないという。
NEDOは今後、深紫外域においてパルス幅10ピコ秒クラスで発振する平均光出力50Wの深紫外短パルスレーザー装置を開発していく方針である。スペクトロニクスも、8Wを超える大出力の発振器開発に取り組む予定だという。
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