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プログラミング教育は「AIへの恐怖」と「PCへの幻想」を打ち砕く?踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(13)STEM教育(1)(1/10 ページ)

今回から「STEM教育」を取り上げます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、デジタルやITの存在はますます大きくなっています。これからの時代、「デジタル=インフラ」として捉えることができなければ、生き抜くことができないと言っても過言ではありません。それを考えると、確かにSTEM教育は必須なのですが……。プログラミングの“酸いも甘いもかみ分けた”エンジニアとしての視点で、STEM教育を斬っていきます。

» 2021年06月18日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー


SNSの世界における「通貨」

 最近の就職活動(就活)では、「インフルエンサー採用」なるものがあるそうです。

 「インフルエンサー採用」とは、SNS(Twitter, Facebook、Instagram等)のフォロワー数によって内定がもらえるもので、インターネット上で情報拡散能力がある人――インフルエンザウイルスのような強い感染と影響を与えられるメッセージをSNSで発信することができる人 ―― を優遇する採用枠のことです

 正直、何で? と思いました。―― 会社(法人)の公式SNSならともかく、個人のSNSのインフルエンサーを採用して、会社にどんな価値があるか、私には、分かりませんでした。

 次女(大学1年生)によれば、「インフルエンサー」とは、ざっくり以下のような人物のようです。

 もっとも、企業によっては、個人のSNSによる情報発信能力を利用することがコンプライアンス、モラルとしてどうか、と考える向きもあるようです。

 そもそも、個人のSNSは現実の仕事とは関係がないし、ネットでの言動が、現実世界での人格とは似ても似つかわない、なんてことは普通にあります。私、そういう人間を、たくさん見てきました。

 SNSでは理路整然と堂々と自己主張ができる人間が、現実の世界では、ボソボソと話し、聴衆の目を見てアピールすることもできない人間だった ―― そのようなケースは別段珍しくもありません。

 実際に、私(江端)は、こんな(比較的過激な内容の)コラムを寄稿していますが、会社や町内においては、温和で穏やかな性格で、会社の上司に対するイエスマンであり、良き家族の父親を演じ……もとい、そういう人物です。

 ですから、私は「インフルエンサー」なる人物が、実社会で本当に活躍できる人物であるかどうか、かなり疑っています ―― 私は、「ネット上での人格と能力」と、「実社会における人格と能力」に連続性がないことを、よく知っているからです。

 しかし、SNSは、上記の図(『インフルエンサーとはどういう人物か』)に記載されているような8つの能力を「数値化することができる」という点において、従来の就活の評価材料(エントリーシート、面接等)とは決定的な違いがあります。

 SNSで発信しているメッセージの内容 ―― 上品か下品か、知性的か痴性的か、話題や言葉の品格や品性 ―― が、どうであれ、『SNSのフォロワー数は、少ないよりは、多い方が良い』 ―― これは、学校での通知表や、出身大学などのように、今の社会で受けいれられる価値観です。

 学歴/学位、職歴/職位、既婚/未婚、恋人の有無、家柄、etc,etc ―― これらの価値と同じレベルに「SNSのフォロワー数」とか「インフルエンサーと認定される」ことが位置付けられるのであれば、その「数字」のためにむちゃをすることは、全く『バカげたことではない』です。



 2013年頃、アルバイト先で悪ふざけをした写真や動画をスマホなどで撮影して、SNSに投稿し、それが理由で炎上、そして、アルバイト先が閉店を迫られるという事件が社会問題となっていました。最近は、SNSだけでなく、企業SNSでの炎上も多くなってきています。

 これは、一言で言えば「バズりたい」という欲望の暴走です。なぜ「バズりたい」かというと、そのバズる数(リツイートの数)やフォロワー数とは――『私って(または、ウチの会社って)、こんなに人気があるんだぞ』と、友人に(または、業界で)マウントが取れるからです。

 そして、その数を見て、1人でニンマリしながら、自己承認欲求を充たしてくれる、SNSの世界における通貨なのです。

 具体的に言えば、YouTubeの再生回数800万回のコンテンツは、再生回数80万回のコンテンツより「勝っている」という価値観です。

 冒頭の、企業の「インフルエンサー採用枠」の話は、実は「オマケ」みたいな話で、“リツイート数”や“フォロワー数”という数値は、「他者へのマウント」と「自己承認欲求」について、定量化(数値化)できる価値なのです。

 実は今回、この話を冒頭に紹介したのは、最近、私自身、大変ショックを受けた事件が発生したからです。

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