では、今回の最後に、「コンピュータ教育」と言われているものに対して、子どもだけでなく、多くの大人が誤解しているであろうことを、書き出してみます。
繰り返しになりますが、「プログラミング教育≠プログラマーの育成」ですが、プログラミング教育によってプログラマーを志す、小学生が増えるかもしれません。
そのような子どもたちに、大人たちには「理系や数学が得意でなければ、プログラマーにはなれないよ」などというデタラメを教えてもらいたくありませんし「プログラマーになれば、将来安泰だよ」というウソを言うのも止めて頂きたいと思っております。
現時点で、私が言えることがあるとすれば、「プログラマーは、在宅勤務という業務形態に対して、有利な職業である」ということくらいです。
では、今回の内容をまとめます。
【1】今回から新連載「STEM教育」を始めますが、今回は、STEM教育のことには、全く言及しておりません。
【2】ソーシャルネットワーク(SNS)における各種の数値は、「バズりたい(流行らせたい)」と「マウントしたい(自慢したい)」という欲望の定量化であることを、「江端のコラムのツイッターカウント“ゼロリセット”事件」を含めて説明してみました。そして、もし、この数値が、“0”と“1”の2つの数値しかない世界があったとしたら、私たちは、どのように、その世界と相対するか、というテーゼを投げかけてみました。
【3】文系と理系というカテゴライズの見方の一例として、ドラマ「半沢直樹」を使って、「文系と理系は、違う世界に生きる、違う種類の人間である」という社会通念が定着していることを示しました。
【4】さらに、「文系と理系、どっちがトク(儲かる)?」という長年の疑問に対して、公開された論文のデータを使って収入の解析を行い、理系優位説が必ずしも成り立たないことを示し、さらに、年収を確定しているパラメータを調べた結果、「男性に生まれること。理系文系は関係なく、大企業に正規雇用で入社すること。決して転職なんぞしないで、会社にいすわり続けて、出世し続けること」が戦略として有効であることを数値で明らかにしてしまいました。
【5】文部科学省の示している「小学校のプログラミング教育」について検証を行い、プログラミング教育の目的が、「コンピュータ、またはAI技術による未来の恐怖からの回避」または、「「コンピュータ=魔法の箱」幻想の破壊」にあると結論付けました。
【6】小学校プログラミング教育で、文部科学省は、"Scratch"という、ビジュアル型プログラミング言語を、実際に使ってみて、「プログラミングの本質」を理解するには有効なツールであると同時に、「プログラミングという業務」を誤解させる恐れがあることに言及しました。
以上です。
文部科学省のプログラミング教育は、中学生向け、高校生向けもあるようで、高校では、「情報I」という科目が必修化されるようです。
今、ちょっと、「高等学校情報科「情報II」教員研修用教材(本編)」の内容を見てみたのですが、相当高度な内容で、心底にビックリしました。
「決定木」「K-mean法」「アソシエーション分析」「テキストマイニング」「ニューラルネットワーク」って ―― マジか……(参考)。
うん、正直、上記のアルゴリズムを自力でコーディングできる高校生を量産することができたら、日本は間違いなく、最高レベルのIT立国として世界と戦えます ―― 単に、ITシステム開発を受注するSIerではなく、マジで、米国やロシアの都市をサイバー攻撃で壊滅させるレベルになれるかもしれません(まあ、平和憲法との兼ね合いはあるでしょうが)。
逆に言えば、このプログラミング教育を、他の国が先行して確立し、その間、日本がボーっとしていれば、確実に、我が国は外国からのサイバー攻撃の餌食とされるだけの国家に成り下がる ―― これは、断言できます。
なぜなら、そういう攻撃は、既に始まっているからです(例えば、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)や国土交通省、外務省は2021年5月26日、情報流出があったと発表/朝日新聞)。
そんでもって、この事件が、夜7時から放映されているNHKニュース7の「トップニュースになっていなかった」ことに、正直、私はショックを受けています。
次回は、ボランティアベースの”お母さん講師”によって運営されている、プログラミング教室「パイ・テック・クラブ」のスタッフの方へのインタビュー、その他をご紹介いたします。私(江端)のえげつない質問の数々に対する、スタッフの皆さんとの生々しい応酬を、お伝えできると思っております。
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