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» 2021年06月18日 11時30分 公開

プログラミング教育は「AIへの恐怖」と「PCへの幻想」を打ち砕く?踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(13)STEM教育(1)(4/10 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]

文系と理系って、どっちが“もうかる”の?

 その中でも、日本人の多くが最も気にしていること ―― 文系と理系、どっちがトク(もうかる)? について、検討してみました。

(1)理系は、文系と比べて、「技術」という「数値化できる価値」を個人に付随させることができる。
(2)それ故、理系は年収が高く、また、転職においても有利である

 つまり、理系の持っている技術は、可視化しやすく、ポータビリティ(移動性)が高い分、文系と比べて優位性がある、ということです。

 これは、理系一般について、世間で信じられている事項のようです。実際に、私の姉と嫁からこのようなことを言われたこともあります。

 私は、「年収が高い」においては疑問がありますが、転職に関しては「自分のスキルを箇条書きにできる分、トクかもしれない」くらいのことは思っていました。

 ところが、文献(論文)調査をしてみると、どうも、この「理系優位説」が、かなり怪しい話であることが分かってきました。以下に2つの論文をご紹介致します。

 特に衝撃的だったのは、データから保健(医学)系の職業を除けば、文系と理系の収入の差がキレイに消えるという事実でした。さらに、女子については、理系は最低最悪の選択であるとも言えるというデータが示されていました。

 データ解析を行うエンジニアの一人として、私は、このような結果が、そのデータの内容よりも、むしろ、そのデータの計算方法や、データエンジニアの(意識的または無意識な)恣意によっても大きく変動することを知っています。これは、データ解析における常識です。

 ただ、ここで重要なことは、理系と文系どちらが優位か、というのは、その主張者の立ち位置によって変動する程度の差でしかないということです。

 以下に、公開されているデータを2件ほどご覧頂きたいと思います。一つ目は、ITエンジニアの収入に関するデータです。

 このデータの出どころは転職サイトでしたので、そういう意味で、収入の金額を抑えぎみにしているという可能性があります。

 実際のところ、ITシステムの仕事は、プログラム以外でも、顧客インタビュー、基本設計、システム構築、システム運用/監査、システム改修、プロジェクトマネジメントなど、各種の業務があり、この年収以上になっている可能性もあります(この年収以下になっている可能性もあります)。

 私は、我が国における、プログラマーに対する冷遇さを、身に染みて知っています。被害者としてはもちろんですが、加害者としても語ることができます(これは次回以降、ウンザリするほど語る予定です)。

 一方、下記のデータは、上記の結果と真逆の結果を顕著に現わすものとなっています。

 これ、どの世界線のデータ? と思ってしまうような、高収入と低失業率です ―― その世界線の名前は「米国」です。

 「ウソだろう?」と思われるかもしれませんが、このデータは「私の直感」と一致します。

 私は、たった2年間だけですが米国赴任させられていました。その時、同僚だった彼らの家屋や庭は、めちゃくちゃデカくて広かったです。20〜30人くらいのパーティ日常的に開催されていて、庭は野球ができる程の広さがありました。

 まあ、今思えば、あれは「サブプライムローン」事件*)の前だった、ということを鑑みても、同じ仕事をしているエンジニアとは思えない、高所得者の不動産であったと思います。

*)関連記事:「日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった

 ただ、こちらも、データ製作者の立ち位置を考慮しておく必要があります。この論文は、「STEM教育を推進する団体」によって作られていたものだからです。



 さて、前述した、

(1)理系は、文系と比べて、「技術」という「数値化できる価値」を個人に付随させることができる。
(2)それ故、理系は年収が高く、また、転職においても有利である

について、(1)はともかく、(2)が相当に疑わしいことが分かってきました。

 ―― では一体、”何”が年収を決定しているのか?

 私は、前述の論文を読み直して、そこに記載されているデータから、自分なりの計算を行いました。その結果は、絶望的なほど「何にも変わっていない過去の価値観」が、そっくりそのまま継承されていたものでした。

 つまり、良い収入を得たければ、「理系文系は関係なく、男性に生まれて、大企業に正規雇用で入社して、決して転職なんぞせずに、会社にいすわり続けて、出世し続けること」が、データから明らかだったのです。

 ―― 結局、そこかよ!

 自分の計算結果で、私は心底絶望しました。

 そして、正直、こんなことは書きたくありませんが ―― ドラマ「半沢直樹」における、メガバンクにおける社内権力闘争は、少なくとも我が国においては、正当かつ伝統的な『高収入取得戦略』である、ということが、図らずもデータと計算で証明されてしまった、ということです*)

*)ただし、(しつこいですが)データ分析が、データを取り扱う者の「立ち位置」と「恣意」によって変化することは覚えておいてください。

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