A2:これは、明らかに「ノー」です。反証の材料は、非加熱血液凝固因子製剤による薬害エイズやフィブリノゲン製剤によるC型肝炎など、たくさんあります。
命に関わる副作用を避けるため、発売後かなり年月がたってから用法用量を調整された薬剤もありましたし、つい最近では後発医薬品製造の製造工程の管理が問題で睡眠薬と水虫薬の成分が入れ替わってしまった事件もありました(参考資料)。
さらにはワクチン接種会場で発生する問題もゼロではありません。空気を注射してしまったとか、一度使った注射器をもう一度刺してしまうなど、ヒューマンエラーもゼロではありません。
だからというか、当然というか、日本の医療は「医療および医薬品に100%の安全は無い」ということを前提として制度設計がされています。医療従事者には医薬品の使用に際して問題があれば、薬事法に基づき副作用を報告する義務があります(参考資料)。
医師がこんなことを言うのもどうかと思うのですが、自分が病気にかかったとき、患者としての自分はほぼ「まな板の上の鯉」状態です。臨床試験、製造、保管、使用手順、最後の最後に取り違えがないかどうかまで。患者は様々な場面でエラーが起こりうるのを飲み込んだ上でこれらを全て「信じて」医療を受けざるを得ないというのが実際です。
ワクチンに関して言えば、ファイザーやモデルナ、アストラゼネカがどのような品質管理を行っているのか。超一流の品質管理が行われている事になっていますが、末端の利用者にとってはブラックボックスです。
そのような状況の中でセンセーショナルに異物混入事件が報道されました。一般人の恐怖をかき立てるのに十分な事例だったと思います。
この件に関しては「コアリングによるゴム片の混入が異物の正体であり無害である(参考)」「一部ロットで製造機器組み立て時の不具合によるステンレス混入があったが安全性に影響は無い(参考)」と通達がありましたが、コアリングやステンレス片混入だけでは説明のつかない重大な品質低下を伴う事例が存在していた可能性が無いかどうかは、メーカーを信じる以外に無いのです。
ロジックだけで考えれば臨床試験の結果と品質低下の確率とを天びんに掛けて利益を取るべきだとなるでしょう。しかしそれが命を預けるものである以上、「信じる」ことができるかどうかが非常に重要です。
薬害の歴史を踏まえた上でワクチンバイアルへの異物混入のニュースが与えた影響は、不安や恐怖からワクチン接種を避ける事に対して、十分とは言えなくてもそれなりに強い根拠になり得るのではないでしょうか。
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