米国内の半導体生産能力に対する投資が不十分なことから、米国国防総省がアジアからの半導体供給を断てるようになるまでには、まだ長い年月を要する見込みだという。業界関係者やアナリストらに詳細を聞いた。
業界関係者や政府観測筋によると、現在、米国内の半導体生産能力に対する投資が不十分なことから、米国国防総省(以下、DoD)がアジアからの半導体供給を断てるようになるまでには、まだ長い年月を要する見込みだという。
世界的な半導体不足は、米国の防衛/航空宇宙大手Lockheed MartinやRaytheon Technologies(以下、Raytheon)をはじめとするDoDの請負業者にとって、ロシアのウクライナ侵攻で使われる武器の生産能力を低下させる要因となっている。
また、DoDは、ファウンドリーの生産能力を確保するための競争や、米軍が旧式の半導体アーキテクチャに過度に依存していることなどについても考慮する必要がある。
このため、米国が約10年にもわたり、台湾が関わる紛争への対応に課題を抱えているという懸念が表面化するようになった。皮肉にも台湾は、DoDが使用する半導体を供給するファウンドリー、TSMCの本拠地である。
台湾は、米中間で高まる緊張の中心部に置かれている。台湾国防部によると、2022年12月25日には、過去最大規模となる47機の中国軍機が、台湾海峡の中間線を越えて侵入したという。米国はこの数日前に、「米国国防権限法2023(NDAA 2023:National Defense Authorization Act 2023)」を可決し、今後5年間で台湾に最大100億米ドルの安全保障援助を提供することを決定したところだった。
iDeal SemiconductorやAgere Systems(LSI Corporationに合併)などの半導体メーカーを創設した電子技術者であるMike Burns氏は、「DoDが信頼性に優れた国内サプライチェーンを構築できるようになるまでには、この先10年間を要するだろう」と述べる。「問題は、米国メーカーであるIntelが、いかに迅速にTSMCに追い付けるか、という点にある。TSMCは、旧Altera(Intelが買収)や旧Xilinx(AMDが買収)のFPGAの他、DoDが統合打撃戦闘機『F-35』やミサイル、指揮管理システムなどの各種兵器システムで使用しているさまざまな半導体の製造を手掛けている」(同氏)
Burns氏は米国EE Timesのインタビューの中で、「その取り組みは、長い期間を要することになるだろう」と述べている。
「確かにTSMCは2022年12月に、米国アリゾナ州フェニックスに置く製造施設への投資総額を、当初の3倍以上となる約400億米ドルに拡大した。予定する第2工場では、2026年に3nmノードでの製造を開始する予定だという。AppleやAMDは、TSMCのアリゾナ工場から半導体チップを調達する予定だが、同工場がDoDのサプライヤーになる可能性はなさそうだ」(Burns氏)
さらにBurns氏は、「TSMCがDoDに半導体チップを供給するとは思えない。米国人のエンジニアたちに対するTSMCの態度を見れば、同社があまり満足していないことが分かるだろう」と指摘する。
TSMCはしばしば、同社の最先端製造技術は、台湾国内に保持していくことを主張している。世界最大のファウンドリーであるTSMCは、自社製半導体チップ全体の90%以上を国内で生産している。同社は2022年、米国に先駆け、3nmノードでの量産を開始した。
TSMCは、アリゾナ工場で働くエンジニアを米国で雇用したが、その一部と文化的に衝突している。「この課題と、TSMCがAppleやAMDなどの大口顧客へのサービスの提供を重視していることから、Intelの小規模ファウンドリサービスがDoDのサプライヤーとして適合する可能性が高い」とBurns氏は指摘する。
同氏は、「これはIntel次第だ。Intel Foundry Services(以下、IFS)は、TSMCのプロセスから1〜2世代遅れた特定用途向け集積回路(ASIC)を製造できる。これによってTSMCとの差を埋められる可能性もある」と述べている。
Intelは数年前、FPGAサプライヤーであるAlteraを買収した。Alteraは、TSMCを利用しプログラマブルチップを製造している。同チップは仕様変更が容易だが、ASICの性能には劣る。DoDは、兵器システム向けのカスタムASICを製造するTSMCやSamsung Electoronics(以下、Samsung)のような大規模なファウンドリーを見つけることができないため、FPGAに依存せざるを得ない。
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