東北大学は、使用済みリチウムイオン電池(LIB)の浸出液から、リチウムを効率よく回収できる新たな「膜分離プロセス」を確立した。こうして得られた透過液を濃縮・再結晶化したところ、化学薬品を使わずに純度99%以上の電池級炭酸リチウムを得ることに成功した。
東北大学大学院工学研究科附属超臨界溶媒工学研究センターの渡邉賢教授と鄭慶新特任准教授、同研究科の姚学松大学院生らは2025年11月、使用済みリチウムイオン電池(LIB)の浸出液から、リチウムを効率よく回収できる新たな「膜分離プロセス」を確立したと発表した。こうして得られた透過液を濃縮/再結晶化したところ、化学薬品を使わずに純度99%以上の電池級炭酸リチウムを得ることに成功した。
LIBのリサイクル技術としては、直接再生法や乾式法、湿式法などが知られている。こうした中、次世代型リチウム回収プロセスとして、環境負荷を抑えつつ高い選択性を実現できる「ナノろ過(NF)を用いた膜分離技術」が注目されている。NF膜はイオンの電荷や水和半径の違いにより高い精度で分離が可能なためだ。
研究グループは今回、分離挙動に対し「膜孔径」と「膜表面電荷」が与える影響を調べるため、市販されている2種類のNF膜を用いた。比較的孔径が大きい「NF270」と孔径が小さい「NF1000」を用意し、孔径の違いがリチウム選択性に及ぼす影響を評価した。また、膜の表面電荷を制御するため、エチレンジアミン(EDA)で改質した「NF270-EDA」と「NF1000-EDA」膜を作製した。
膜分離試験では、供給側と透過側の流路を膜で分けた実験セル(容器)にモデルLIB浸出液を流し、25℃の条件下におけるpH(2〜5.6)および、操作圧力(2〜4MPa)の影響を調べた。また、実際の3元系(ニッケル、コバルト、マンガン)廃棄LIBから得た浸出液(pHは1.96)を用い、実使用条件下での分離性能も評価した。
この結果、表面をEDAで改質したNF膜では、表面が正電荷を帯びることでドナン排除効果が強化された。これによって、多価金属イオンは膜内侵入が抑えられ、リチウムイオンは優先的に透過することが分かった。具体的に分離係数は、Li+/Ni2+が645.9、Li+/Co2+が508.8、Li+/Mnx+が307.4となり、従来に比べ一桁以上も大きい選択性を実現した。
さらに、2段階のNFプロセスを組み合わせて得られた透過液を濃縮/再結晶化したところ、化学薬品を用いなくとも純度が99%以上という電池級炭酸リチウム(Li2CO3)が得られたという。
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