名古屋大学は東京科学大学や南洋理工大学と共同で、人工反強磁性体と圧電体を組み合わせれば、電界のみで層間反強磁性結合を制御できることを実証した。非磁性体の膜厚を変えれば、層間磁気結合の電界変調効率を制御可能なことも明らかにした。消費電力が極めて少ないスピントロニクスデバイスへの応用が期待できるという。
名古屋大学は2025年12月、東京科学大学や南洋理工大学と共同で、人工反強磁性体と圧電体を組み合わせれば、電界のみで層間反強磁性結合を制御できることを実証したと発表した。非磁性体の膜厚を変えれば、層間磁気結合の電界変調効率を制御可能なことも明らかにした。消費電力が極めて少ないスピントロニクスデバイスへの応用が期待できるという。
反強磁性体は、隣り合った磁気モーメントが互いに逆方向に配向しており、スピントロニクスデバイスへの応用が期待されている。これに対し、人工反強磁性体は、[強磁性体/非磁性体/強磁性体]の多層膜構造となっている。非磁性層の厚みを調整すれば2つの強磁性層の磁化を逆向きに結合させることができ、反強磁性体と類似する磁気特性が得られるという。しかも、一般的な反強磁性体と比べ、層間における交換結合力が小さく外部制御が容易といった特長がある。
研究グループは今回、「界面マルチフェロイク構造」に着目した。強磁性体のコバルト(Co)と非磁性体のルテニウム(Ru)からなる[Co/Ru/Co]エピタキシャル多層膜人工強磁性体を、単結晶圧電体のPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)上にエピタキシャル成長させた。電界を加えると圧電ひずみが生じて強磁性体に広がる。これにより、磁気異方性などの磁気特性が変調されるという。
研究グループは、この圧電ひずみを利用して、人工反強磁性体におけるCo層間の反強磁性的な磁気結合の制御を実証した。
試料に印加する電界によって、Co層間における反強磁性磁気結合の強さがどのように変化するかも調べた。この結果、特定の電界を加えると結合の強度に「とび」が生じて大きく変化した。詳細な分析を行ったところ、このケースではPMN-PTに大きな圧電ひずみが生じていた。
さらに、Ru膜厚が異なる(反強磁性結合の強さが異なる)新たな試料を作製し、圧電ひずみによる層間磁気結合の変化量を調べた。これらの測定データから、反強磁性結合の強い試料が、結合強度をより効率的に制御できることが分かった。マイクロマグネティクスシミュレーションや第一原理計算の結果からも、圧電ひずみによって変化するRu層の電子状態が、層間磁気結合に変調をもたらすことを確認した。
今回の研究成果は、名古屋大学大学院理学研究科の久田優一博士後期課程学生や小森祥央助教、井村敬一郎講師、谷山智康教授と、東京科学大学物質理工学院の沈晨宇博士後期課程学生、合田義弘教授および、南洋理工大学のCalvin Ching Ian Ang研究員、Wen Siang Lew教授らによるものである。
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