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EUV露光に残された課題――ペリクルの現在地と展望とは湯之上隆のナノフォーカス(86)(5/5 ページ)

» 2025年12月17日 11時00分 公開
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EUVペリクルの展望

 ASMLが2016年に初めてEUV露光装置を世に送り出してから、気付けば10年が経った。この10年で出荷台数は300台を超え、もはやEUVは“未来技術”ではなく、半導体製造の主役に躍り出たと言ってよいだろう。

 その象徴が、TSMCのEUV活用の広がりだ。2019年、7nm+プロセスでEUVが量産投入された時は「5層」程度の適用だった。それが、わずか数年後の3nm世代では「20層超」へと一気に増加している。EUVが先端半導体の歩留まりと性能を左右する“要石”となってしまったのである。

 しかし、である。EUVの本格普及が進む一方で、その陰には見逃せない課題が横たわっている。

 ――EUVペリクルがまだ完成していない。

 先端半導体メーカーが求める水準を満たすペリクルは、いまだ世の中に存在しない。その結果として、ペリクルを搭載しないまま、レチクル洗浄を繰り返しながら、EUV露光を行っている半導体メーカーがあると思われる。先端ロジックにEUVを20層も使う時代において、これは極めて不自然な使い方である。レチクル汚染は歩留まりに直結し、洗浄を繰り返すことはスループットを悪化させる。

 では、EUVペリクルの開発競争はどうなっているのか。現在の主なプレイヤーは、三井化学に加えて、Canatu(フィンランド)、FST(韓国)、S&STech(韓国)、リンテック(日本)、日本ガイシ(日本)などが、次世代ペリクルの“答え”を探索し続けている。

 ただし、どの組織が最終的に「量産に耐えるEUVペリクル」に到達するのかは、現時点では全く読めない。言い換えれば、どの企業にもまだチャンスがあると言える。EUVの需要が爆発的に増えている今、この市場を制するインパクトは計り知れない。

 EUVペリクルは、AI半導体時代の“最後の未踏領域”かもしれない。今後、各組織がどの技術を武器に前線へ躍り出るのか。その動向を、引き続き注視していきたい。

連載「湯之上隆のナノフォーカス」バックナンバー

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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