以上に挙げた欠点を解消し、太陽電池パネルに応用できるようにすべく、股木氏は新構造のEu材料「希土類-金属ナノクラスター」を開発した。分子の直径が2nmと小さく、凝集が起こりにくい。このため、透明度を高くでき*3)入射光が減衰しにくい。消光現象も発生しにくい。
*3) 光の損失は5.57dB/cm(EuとAl、PMMAを用いたとき)。
従来の材料と今回の材料の違いは、Eu錯体の周辺にAl(アルミニウム)を配置した点にある(図3)。試作品では有機金属錯体の濃度を、従来のおよそ100倍に相当する3重量%まで高めることに成功した。「材料の最適化があまり進んでいない試作品でもすでに、単結晶Si太陽電池と組み合わせることで変換効率を9.9%引き上げることができた」(同氏)。出力が100Wだった太陽電池と組み合わせれば出力が110Wになる計算だ。
さらに、Alの替わりに異なる金属を使うことで発光波長を変更できることと、有機物の種類を変えることで吸収波長を変更できることも分かったという。つまり、太陽電池の種類に応じて最適なスペクトルコンバータを設計できる。
例えば、AlではなくGa(ガリウム)を使うと400nm〜600nmという広い範囲で発光し、有機物に[(CH3)2NC6H4]2CO(ミヒラーケトン、MK)を使うと、400nm〜470nmの光を吸収できる。MKには物質の吸収スペクトルを長波長側にずらす深色効果があるためだ。図2でオレンジ色に光っている材料もMKを用いている。
開発した新材料はさまざまな応用が考えられる。例えば、太陽電池ではスペクトルコンバータと太陽電池の組み合わせ方の自由度が広がるという。
通常、スペクトルコンバータは太陽電池の前面に配置する。今回開発した材料を使ったスペクトルコンバータは効率が高いため、配置の自由度が上がる。「Eu有機金属錯体はあらゆる方向に光を放出する。有機薄膜太陽電池など半導体層が薄く、透過光が多い太陽電池では透過光を反射させて再利用する。このときスペクトルコンバータを反射層と太陽電池の間に配置すると、放出した光をすべて太陽電池に振り向けることができるだろう」(同氏)。この他、集光型太陽電池なら高価な太陽電池セルを小型化できるという。
応用範囲は太陽電池にとどまらない。例えば、光ファイバ中で減衰した光を増幅する光アンプに適用できる。「従来は有機金属錯体の濃度を高めることができなかっため、光路長を引き延ばすことで変換効率を高めていた。具体的には、光アンプに内蔵するファイバの長さを20m〜30mと長くする必要があった。新材料を使えばこれをわずか数cmに短縮できる」(同氏)。
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