拡張現実はそれほど新しい技術ではないが、スマートフォンやタブレット端末の普及により関心が高まっている。欧州では、拡張現実アプリケーションの開発に向けて、1000万米ドル規模のプロジェクトが発足した。
EU(欧州連合)が出資するプロジェクト「VENTURI(Immersive Enhancement of User-world Interactions)」は、metaioやSTMicroelectronics、ST-Ericssonといった企業とともに、拡張現実(AR:Augumented Reality)システム/アプリケーションの開発に取り組んでいくと発表した。
VENTURIは3カ年のプロジェクトで、予算総額552万ユーロ(約740万米ドル)に加え、EC(欧州委員会)から364万ユーロ(約490万米ドル)の資金提供を受ける予定だという。参加する企業は、Fraunhofer Heinrich Hertz Institute、STMicroelectronics、metaio、ST-Ericsson、e-Diam Sistemas、Sony Ericsson、フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA:Institut National de Recherche en Informatique et en Automatique)で、イタリアのトレント(Trento)に拠点を置くBruno Kessler Foundationがコーディネータを務める。
metaioは、2003年の設立以来、Webアプリケーション専用に作られたAR構築ソフトウェア「Unifeye Viewer(ユニファイビューア)」の開発を手掛けてきた。VENTURIのアプリケーションは、ST-Ericssonのスマートフォン向けプラットフォームを使用して開発を進め、次世代ハードウェア/ソフトウェアを活用できるように最適化されるという。研究グループは、視覚認識や追跡アルゴリズムなどの技術をST-Ericssonのプラットフォームに移植し、さまざまな実生活環境下のユーザーを対象として試験を行う予定だ。
ARは、テキストやイメージ、グラフィックスなどのデジタル情報を、現実世界に付加する技術である。例えば、カメラを搭載した携帯端末に、GPSなどから取得する位置情報に基づいて建物や対象物の情報を付加したり、リモートデータベースにアクセスしてコンテキスト情報を入手し、オーバーレイ表示したりすることができる。コンテキスト情報とは、場所や時間、状況といったユーザーを取り巻く環境に関する情報を指す。こうした技術は、当初、軍事用アプリケーション向けとして開発されたが、現在ではスマートフォンやタブレット端末に向けた導入が進められるようになった。
VENTURIは、2011年10月に始動した。センサーとカメラを搭載し、十分な処理性能と帯域幅を備えた、モバイルAR向けプラットフォームの開発を目標とする。
研究チームは、VENTURIプロジェクトの一環として、metaioが手掛ける技術に基づき、3Dの情景解析をベースとした視覚による位置認識技術の開発に取り組む予定だ。画面に写っている建物や景色などを360度回転させながら、関連する情報をプラットフォームにダウンロードする仕組みを作るという。さらに、ジャイロスコープ(角速度センサー)や加速度センサーを搭載することにより、画面上に文字を入力する代わりに、ジェスチャで機器を操作できるようになる。
Bruno Kessler Foundationの研究者であり、VENTURIのコーディネータを務めるPaul Chippendale氏は、「VENTURIは、ユーザーを重要視したARを採用することにより、新しいコンテンツ配信システムの実現を目指す。VENTURIでは、視覚障害者向けの技術を開発するフランスやドイツの研究機関と協業し、生活の質を向上させる技術の可能性を意欲的に追求していく」と語った。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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