クロック生成/分配ICや高速シリアルインタフェース対応スイッチICで知られるIntegrated Device Technology(IDT)が、ワイヤレス給電市場に参入する。第1弾として、機能集積度が高く独自の動作モードを搭載した、Qi規格準拠のコントローラICを発表した。
米国の半導体ベンダーであるIntegrated Device Technology(IDT)は、ワイヤレス給電市場に参入する。第1弾としてWireless Power Consortium(WPC)のQi規格に準拠した送電側コントローラIC「IDTP9030」と受電側コントローラIC「IDTP9020」を発表した。
Wireless Power Consortiumは、ワイヤレス給電に関する標準規格(Qi規格)の策定や、普及促進を目指したマーケティング活動を進める業界団体である。2012年3月時点に公開されている範囲で、AtmelやFreescale Semiconductor、Texas Instruments、東芝セミコンダクター&ストレージ社が、Qi規格に対応した半導体製品を発表している(関連記事)。IDTは、こうした企業に比べると後発になるものの、同社の製品担当者は「現在、送電側/受電側ともに1チップ化したコントローラICを製品化しているのは当社だけ。当社のICには数多くの特徴があり、われわれに勝機があると考えている」と意気込みを語った。
IDTのワイレス給電用コントローラICの特徴は主に3つある。1つ目は、送電側を構成するのに必要な機能をほとんど集積し、1チップ化したこと。例えば、Texas Instrumentsが送電側のコントローラIC「bq500210」を2011年9月に発表していたが(関連記事)、これは幾つかのICを外付けする必要があった。今回IDTは、送電側のコントローラ機能を1チップ化したことで、TIの送電側コントローラICを採用する場合に比べて、同等の機能を実装する際の回路面積を80%削減でき、コイルや磁気シールドを含めた部品コスト(BOM)を半分に抑えられると主張する(図1)。
2つ目の特徴は、Qi規格に準拠した動作モードの他に、IDT独自の動作モードを用意したことだ(図2)。Qi規格の動作モードでは最大供給電力は5Wに制限されているが、IDT独自モードを使えば、供給電力を最大7.5Wに高められる。供給電力を高めることで、2つのメリットが得られる。1つは、携帯電話機やスマートフォン、ゲーム機、デジタルカメラといった機器のみならず、比較的高い電力を消費するタブレットPCの充電にも対応できること。もう1つは、受電側の二次電池の充電時間を短縮できることである。Qi動作モードとIDT独自モードは自動に切り替わるようになっているが、IDT独自モードを使うには送電側と受電側ともにIDTの品種を使う必要がある。
3つ目は、異物検知(FOD:Foreign Object Detection)機能を豊富に搭載したことだ。送電台に金属などの異物が置かれたときにアラートを出したり、送電を始めないといった機能に加えて、受電側端末に何らかの金属異物が付着していたときや、送電台に受電側端末が置かれている状態で金属異物が混入したときに送電を中止するという「マルチレイヤー」の異物検知機能を用意した。
この他、送電側と受電側のID認証に使う独自の通信機能「IDT Back Channel Communication」を搭載したことも特筆すべき点である。Qi規格では受電側から送電側に対する通信機能を規定しているが、IDT Back Channel Communicationでは逆に送電側から受電側に情報を送る。通信速度は500ビット/秒〜1kビット/秒。通信にはQi規格と同様の仕組みを使っており、供給電力に周波数変調を掛けることで情報を送る。例えば、送電側から受電側に送る電力を増やせるときに、送電側から受電側に制御信号を送るといった使い方がある。
両品種ともサンプル出荷を開始している。量産は、送電側のIDTP9030は2012年3月末に、受電側のIDTP9020は2012年7月に始める予定。「2012年末に発売される最終製品に搭載されることを期待している」(同社)。1万個購入時の単価は、IDTP9030が4.70米ドル、IDTP9020が3.60米ドルである。
「独自モードを備えたIDTのQi規格準拠IC、それが意味することは何か?」に続く。
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