生産拠点や材料の調達先、顧客を世界各地に持つ半導体メーカーは多い。複数の生産拠点などを持つことはリスクの分散になる一方で、リスク管理の対象が広がるということでもある。どのような緊急事態が発生しても、製品を確実に納品するにはどうすればいいのか。BCP(事業継続計画)に長年積極的に取り組んできたInfineon Technologiesの取り組みを紹介する。
2010年4月のアイスランドの火山噴火。2011年3月の東日本大震災。同年7月にタイで発生した洪水――。相次ぐ大規模な自然災害により、多くの半導体メーカーが影響を受けた。世界各地に生産拠点や顧客を持つ企業にとって、こうした災害が自国以外で起こったとしても、もはや人ごとではない。このような中、不測の事態に備えて対応策を用意しておくBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)に注目が集まっている。例えば、地震が発生して生産ラインが停止したので、地震の影響がない別の生産拠点で増産する、洪水によって製品の輸送が不可能になったときのために、代替の輸送ルートを確保しておく、など、リスクを想定して準備しておくことがBCPである。
Infineon Technologiesは、BCPに長年積極的に取り組んできたメーカーの1つだ。Infineonは、BCM(Business Continuity Management:事業継続管理)専門の部門を設け、独自のリスク管理システムを構築してBCPに取り組んでいる(図1)。
Infineonでは、まず、リスクの洗い出しを行い、どのようなリスクがあるのかを確認する。火事、化学物質による事故や環境に影響を与える事故、地震や洪水といった自然災害、交通機関のまひ、テロ、ストライキ、伝染病の発生など、リスクを洗い出す対象分野は広範にわたる。Infineonは、こうした多岐にわたるリスクによって影響を受ける事象を6つのカテゴリに分類し、各カテゴリについてBCPを策定している。同社はこのカテゴリを「6つのM」と呼んでおり、具体的にはMan Power(人材)、Material(材料)、Machine(技術)、Method(工程)、Measurement(調査/検査)、Mother Nature(環境)がある。この6つに集約することで、リスクの数がどれほど多くても、効率的にBCPを策定することができる。
InfineonのBCPにおいて特徴的なのが、同社が「EDDIE(エディ:Early Detection of Disasters, critical Incidents and External hazards)」と呼ぶソフトウェアを利用して、365日24時間体制でリスクをモニタリングしている点だ。EDDIEには、世界各地にあるInfineonの支社や生産拠点だけでなく、同社が材料を調達しているメーカーや、製品を提供する顧客企業の所在地などの情報が登録してある。
例えば、ある場所で洪水が起こると、浸水している範囲など、洪水に関するさまざまな情報がEDDIEに取り込まれる。BCPの担当者は、その付近に生産拠点や顧客企業、材料の調達先などがあるかどうかをEDDIEで確認し、あった場合には現地にすぐに警告を出す。その後、代替の生産拠点や材料調達ルート、輸送ルートなどについて専門のチームを集めて協議を開始するという。
2010年4月にアイスランドの火山が噴火した際は、EDDIEがその情報を検知した直後から対応を始めた。火山灰の影響で次々にフライトがキャンセルになる中、Infineonは、欧州の顧客への納品が滞らないよう、噴火の影響が比較的少ない南ヨーロッパ方面に飛べる便を即座に探し始めた。そして、火山が最初に噴火した2日後には、ジャンボジェット機をチャーターし、Infineonの生産工場があるシンガポールからスペインのバルセロナへ部品を輸送、無事に製品を納品することができた。この他にも小型の飛行機をチャーターして、最初の噴火からわずか1週間で受注残を解消している。こうした迅速な対応により、顧客の生産ラインが停止することもなかったという。
Infineonは、「EDDIEを用いて24時間体制でリスクをモニタリングしているので、不測の事態が起きた際に即座に、対策チームが動き出す。このスピードが当社のBCPの一番の特徴である」と強調する。同社のBCP本部でディレクターを務めるRoland Weixlgartner氏(図2)は、「当社にとって、“いかに確実に製品を納品するか”というのは非常に重要なポイントだ。包括的なBCPの体制が整っていれば、(災害や事故など)あらゆるリスクに対する抵抗力と対応力を備えることができる。常にモニタリングしてリスク評価を行うことで、有事の際に迅速かつきめ細かい対応が可能になる」と語った。
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