IBMとシンガポールの研究所は、飲み終わったペットボトルなどの廃プラスチック材から、真菌を攻撃するナノファイバー抗菌剤を生成したと発表した。年間約23億kgにも上る廃プラスチック材を有効に活用できる可能性がある。
IBMとシンガポール バイオ工学・ナノテクノロジー研究所(Institute of Bioengineering and Nanotechnology:IBN)の研究員は、PET(ポリエチレンテレフタレート)といった一般的に普及しているプラスチック材料から、真菌を特異的に攻撃するナノファイバー抗菌剤に転用可能な新しい分子を生成することに成功した。
この分子は、水素結合によって自己組織化し、分子が互いに結合してナノファイバーを形成する。分子は、このようにナノファイバー形状になったときのみ、真菌の活動を抑制する(ナノファイバー抗菌剤)。ナノファイバー抗菌剤は正電荷を持ち、負の電荷を帯びた真菌の細胞膜だけを選択的に狙って付着し、細胞膜壁を破壊する。このため、真菌が進化して薬剤耐性を持つことを防ぐという。
ナノファイバー抗菌剤の最小発育阻止濃度(視認できる細菌増殖を抑制する抗菌薬剤の最小濃度)は、複数のタイプの真菌感染に対して強い抗真菌活性を示す値となった。なお、抗真菌活性とは、真菌を抑制する特性である。
一例として、血液感染症を引き起こす真菌の1種であるカンジタ・アルビカンス(C. albicans)をナノファイバー抗菌剤と培養したところ、1時間後には99.9%が除去された。さらに、11回の反復試験後も薬剤耐性の発現はみられなかったという。一方、既存の抗真菌薬は、菌の増殖は抑制できたものの、6回の反復試験後で薬物体制が現れた。
水虫や真菌製血液感染症など、真菌感染症に感染する人々は毎年10億人を超える。真菌は進化して、薬剤に耐性を持つようになるため、この問題を解決すべく、効率的な抗菌薬の開発が早急に必要とされている。
飲料ペットボトルを由来とする廃プラスチック材は、年間約23億kgにも上る。こうした廃材のほとんどは粉砕されて、主に衣服やカーペット、公園の遊具などにリサイクルされてきたが、今回の研究成果により、再利用の新たな道が開けてきた。
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