MINIは突然、AR分野に足を踏み入れたわけではない。BMWは10年以上にわたり、HUDからアイウェアに移行するべく研究開発を続けている。MINIは、ARを取り入れることでアイウェアをさらに進化させられるとしている。ARアイウェアは、HUDよりも、はるかに広い視野をドライバーに提供できるのである。
MINIが披露したARアイウェアは、「Google Glass」のように日常生活で使用するものではなく、自動車に特化したものである。Qualcommは、自動車向けARアイウェア実現への道標を示したMINIおよびBMWの取り組みを評価している。
QualcommのWright氏は、「従来のARアイウェアは、民生市場への展開にいくつかの障壁があった。日常生活全般を対象としたHMDは、ファッション性やプライバシー、電池寿命などの問題がネックとなって普及が進んでいない」と指摘する。
では、用途を自動車に限定した場合はどうだろうか?
Wright氏は、「市場展開の障壁は下がるだろう。ドライバーがARアイウェアを装着するのは、ほぼ車内に限定されるため、プライバシーやファッション性は大きな問題にはならない。さらに、ドライバーは一日中ARアイウェアを掛けているわけではないので、電池寿命もそれほど必要ではなくなる」と述べている。
QualcommとMINIの両社は、Augmented Visionが安全運転に役立つとアピールしている。ただし、Augmented Visionの安全性は、AR用デジタルコンテンツが現実世界と完全に整合し、遅延なくドライバーの視野に重ね合わせられるかどうかにかかっている。
ARアイウェアにとって最大の課題は、現実世界の情報を処理して合成するまでにかかる時間だといわれている。例えば、トラッキングした情報をキャリブレーションしてアイウェアのディスプレイに表示するという作業(処理)は、瞬時には行えない。そのため、リアルタイムの周囲の状況とは完全に一致させることができず、物体が宙に浮いているように見えたり、専門家が「Swimming Effect」と呼ぶ、めまいがするような現象を引き起したりする場合がある。
簡単に言うと、頭を動かすとHMDの画像に乱れが生じる。Swimming Effectを最小限に抑える1つの手段として、HMDの位置情報を“計測する”のではなく“予測する”方法がある。AugmentedReality.orgの共同創設者でCEO(最高経営責任者)を務めるOri Inbar氏は、「光学トラッキングシステムで取得した情報と、加速度センサーや角速度センサー、イメージセンサーアレイなどの各種センサーからのデータを融合させることで、HMDの表示を安定させることができる」と説明する。
Qualcommは、この手法を緻密に実行していると思われる。Wright氏は、「アプリケーションプロセッサ『Snapdragon 805』とVuforiaで高速処理を行って、それらのデータを融合することで、HMDに表示するまでの処理時間(Motion-to-Photon)を、タイムラグを感じないレベルにまで短縮できる」と述べている。
AugmentedReality.orgのInbar氏は、EE Timesに対して、「ハードウェアとソフトウェアの進歩を組み合わせることで、スマートグラスで完全なAR体験を提供することができる。頭部を素早く動かしても、スマートグラスの画像には一瞬の遅れも生じない」と語った。
同氏は、「人間の視覚と脳は、動きに対して非常に敏感なので、たいていのことを認識できる。だが、優れたユーザーインタフェースがあれば、安全上のあらゆる問題を回避することも可能になる」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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