さて、ここで、
(1)江端のコラムに1mmも興味がなく、はっきり言って江端の文章を読むことに苦痛すら感じているあなたが、
(2)江端のコラムの熱狂的なファンであるあなたの上司から、今回の江端のコラムの要約を報告するように命じられた
という、架空の状況を想定します。
あなたは、江端のコラムをコピペして、TMS(あるいは他のテキストマインドツール)にテキストを張り付けて、上記の解析結果を得て、そして、以下のようにまとめて上司に報告します。
―― うん、報告内容、メチャクチャですね。
しかし、重要なことは、「でたらめであっても、上司への報告が可能な状態になった」ということですので、これはこれで良いのです(江端のコラムを自分で読まない、その上司が悪い)。
実際のところ、私が申し上げたいことは、「“人工知能”技術『だけ』に頼ろうとすると、こういうことになる」ということです。
結局、現時点においては、“人工知能”技術は、私たちの仕事のアシストをするという位置付けで、ちょうど良いのです。
そもそも、テキストマイニングの使い方としては、このようなコラムのコンテンツ解析は向いていないと思います(文豪の作品を、テキストマイニングで分析しても、多分、「要約」を得ることはできないでしょう)。
テキストマイニングは、
などには向いています。
実際、大変重宝しております。
それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】私や、多くの人が期待しているような“人工知能”とは、マスターたる人間に奉仕するスレーブであり、ご主人様に使えるメイドです。しかし、現時点において、そのような“人工知能”はどこにもありません。
【2】“人工知能”の研究開発は、他の技術とは異なり、「希望と絶望の相転移」を繰り返すという特徴があります。歴史的に、これまで「相転移」は2回繰り返され、そして、これからも永久に、この「相転移」が続いていくと思われます。これは、人類の“人工知能”に対する過大な期待に起因します。
【3】“人工知能”に関する記事は、「何が言いたいのか、さっぱり分からない」ものが多いです。それは、“人工知能”に関する技術、ビジネス、社会など、書いているカテゴリーが非常に多く、さらに、“人工知能”技術に対する適正な情報と理解の欠如に因るものと考えられます。
【4】“人工知能技術”というものは存在せず、知的(に見える)情報処理の個別バラバラの技術が纏められて“人工知能”と称呼されています。これが“人工知能”に対する誤解(過度な期待、不適切な知識)を生み出す一端になっていると考えられます。
【5】テキストマイニング技術とは、「膨大なテキストを一行も読まないまま、全部コンピュータに読ませて、それなりの内容把握をするもの」という乱暴な定義を行い、さらに、テキストマインドツールは、使い方によっては、有効にも有害にも働くことを、実際の事例で説明致しました。
以上です。
では、最後に、私の愚痴にお付き合いください。
私、執筆を開始する前、1週間程度をかけて、設計図(目次のようなもの)を作るのですが、完成後の原稿を見ると、内容が全然違うんですよ(例えば、今回の前半は「PCが使えなくなっている若者」、後半は「ベイジアンネットワーク」の話になるはずだった)。
執筆直前の週末になると、私は神を降ろすのですが、降りてきた神は、私の周到な事前準備を完全に無視して、勝手にツールを操作し、“パワポ”で絵を描き、文章を作成します。
締切までに、原稿を書き終えてくれる神サマには、感謝はしているのですが ―― 正直ちょっとムカつきます。
⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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