ここ数年、メーカーに限らず希望退職を実施した企業は少なくないが、われわれが知り得る「表面上のニュース」以上に、実際の現場では、さまざまな人の葛藤や駆け引きが行われ、表に出てこない出来事がたくさんあったはずだ。
誰しもが、企業という組織に属した瞬間に、企業のルールで縛られ、周囲の人と協業をすることは、社会人・企業人としての務めであることには間違いない。ただ、そんな中でも、時としてルールを変えたり、間違ったことを正したりしなければならないことはあるだろう。
しかし、社内は決して味方ばかりではない。敵も存在する。筆者自身、何度も味方だと思っていた人から、背中を撃たれたこともある。そのような状況で、たった1人のエンジニア(エンジニアでなくとも社員)が人間として何を、どこまでできるのだろうか。たいしたことはできないかもしれないし、皆、望んで自らが「出る杭になって打たれよう」とは思わないだろう。
「それは俺の仕事ではない」と言うのは簡単だが、真剣に変革をしようとしている人の足は引っ張らないでもらいたい。また、傍観しているくらいなら、いっそ、口に出して、あるいは行動として、邪魔をしてくれた方がはるかにマシな時もある。時に、傍観者は最大の敵となり、暴力にすらなるからだ。
大事なことは、改革の成否ではなく、「変えようとする気持ち」と、「一緒に動く仲間がどれだけいるか」だ。そして、組織の中で動きたくとも動けない人間が多くいることも知っていてほしい。さらに、「より立場が高く、動けるはずなのに動かない」、そんな人間をどう動かして味方につけていけばいいのかを知っておくことも大切だ。それを皆さんにお伝えしたくて始めたのが本連載である。主人公の須藤を昔の筆者自身に重ね合わせている部分も少なくない。それはいずれ、「回顧録」として皆さんに紹介できればと思う。
⇒「“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日」バックナンバー
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を開発設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画業務や、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『”AI”はどこへ行った?』『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』などのコラムを連載。書籍に、『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』、コラム記事をまとめた『いまどきエンジニアの育て方(C&R研究所)』がある。
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