さて、ここから後半です。
前回のコラムで、私は自作の「尊厳死宣言書」のドラフトの作成を行ったというお話をしました。このドラフトは「尊厳」よりも、「苦痛回避」を全面に押し出しました。
前回の原稿を、大学の医学部に所属の医師であり、かつ「1/100秒単位でシミュレーションした「飛び込み」は、想像を絶する苦痛と絶望に満ちていた」の解析の時に、大変お世話になった、ご自称「轢断のシバタ」さんにレビューして頂きました。
その結果、「現場の医師の業務を混乱させるダブルスタンダード」が含まれている旨の問題点を教えて頂きました。今回は、このお話から始めたいと思います。
私は、「苦痛回避」を優先するため、「病気」に加えて「事故」を加えて、さらに「不治の病」の限定を外す旨の記載をしました。
これに対して、シバタさんは、以下の問題点を指摘されてきました。
上記に記載した通り『「不治の病」の限定を外す』ことで、助かる可能性の高い命があることを4つのユースケース(大量失血、呼吸困難、大火傷、窒息)で具体的に示されていました。つまり「放置すれば死亡確実。処理すれば救命可能」状態です。
さらに、シバタさんは、通常の医師の行動規範を規定され、この宣言書が、「医師を追い詰めることになる」ことを、4つの理由から明示されました。
医師は、通常の行動規範と、宣言書の法的効力の2つの矛盾の間で、その能力を発揮できない状況に陥るという現実を、上記の4つの理由(前例なし、患者の死亡の看過、法的なダブルスタンダード、報復的訴訟の恐怖)から、具体的に説明されています。
そして、最後は、江端個人(あるいは江端のような思想と動機を持つ誰か)に特化したメッセージとなっていました。
つまり、「江端みたいな奴が、世の中に一人でもいる」と考えると(まあ、実際に1人はいる訳ですが)医師は非常に困るのであって、そこのところも、ちゃんと考えてくれないと困る、という、現場の医師の切実な声が聞こえてくる、
―― 江端の「尊厳死」の考え方に対する、現場の医師のリアルな恐怖
が伝わってくる、シバタさんのレビューレポートでした。
前回も記載しましたが、2014年5月23日に内閣府が、一般社団法人日本尊厳死協会の公益認定申請に対し、却下の処分をしました。しかし、その後の裁判によって不認定処分の取消(内閣総理大臣の負け)が確定しました(2019年11月14日)。
内閣不の却下処分には、尊厳死に関する上記の「現場の医師のリアルな恐怖」が色濃く反映されていると思っています。また、悪意で考えれば、「終末治療というビジネスチャンスの損失」を恐れた団体からの圧力があったかもしれません(私の邪推です)。
実際、シバタさんのレポートの中にも、現在の医療の一部が「"収益>苦痛除去"になりがちなのは否定しきれません」とも記載があり、医療ビジネスが、患者の苦痛回避を最優先していないかもしれないことも、記載されていました。
ともあれ、私個人としては、私は、このレポートを何度も読み直し、ドラフトの第1項柱書の記載を元の状態に戻すことにしました。現場の担当医を困らせることは、私の本意ではないからです。
ところが、地元の公証役場に予約の電話を入れたところ、『申し訳ありませんが、新型コロナウイルス*)の影響で、4月まで受付を中止しております』と言われてしまいました。
*)2020年3月時点で有効な医薬、治療法がなく、致死率は低いものの、全世界で肺炎死亡者が確認されているウイルス性疾患。政府は、2020年2月27日、全国すべての小中高、特別支援学校を対象に3月2日から春休みまで臨時休校を要請する、という歴史的決定をした。
――というわけで、残念ながら、現時点で、私の自作の「尊厳死宣言書」を、公証役場に届け出ることができません。このウイルス疾患の収束までは、「尊厳死宣言書」が不要となるように、健康と事故には十分に留意していきたいと思います。
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