後輩:「お疲れ様でした ―― もう、この一言に尽きますね。江端さんの熱意と読者の興味が、これほどまでに、かみ合わずに空回りする『痛々しい江端コラム』は初めてですよ」
江端:「うん、まあ。”量子猫”やら、さまざまなコンセプトを導入して、なんとか読者の興味を引こうとしたのだけど、結果としては、『量子コンピュータ』よりは、『奇怪な量子現象の話』に全部持っていかれた、という感じがする」
後輩:「江端さんの記事を読んで、量子コンピュータを『理解した』、または、『理解したような気になっている』人って、どれくらいいるんでしょね」
江端:「正直、それは厳しい問いだな。そもそも、私の中ですら、『量子コンピュータが完成している』と言える状態にないから」
後輩:「このシリーズの江端さんの努力はもちろん、その作品にしたって、かなり良いものだと思いますよ。だから、私には、江端さんの”プレゼン力”に問題があったとは思えないんですよ」
江端:「じゃあ、何?」
後輩:「この際ですから、はっきり言いますよ。『量子コンピュータ』って、実は、量子コンピュータのオタクとか、量子コンピュータの研究員とか、そういう、ごく一部の、選ばれた人間だけにのみに”見える”対象なんじゃないでしょうか」
江端:「……それって、選民思想」
後輩:「違います。「民(たみ)」によって選ばれるのではありません。「愛」によって選ばれるのです。これは『量子コンピュータに愛されないエンジニア』というコンセプトで説明できるはずです」
江端:「この連載のパクリか?」
後輩:「江端さんは、既に英語というものを「愛」という観点から論じられていますよね。『英語に愛されない者は何をしても愛されない』 ―― あの時、江端さんが確立したテーゼ「英語は相思相愛のみで成立する。英語に対する努力の多くは報われずに終わる」は、もちろん多くの人を絶望させたかもしれませんが、同時に多くの人も救ってきたと思うんです」
江端:「つまり、それは、「量子コンピュータに愛されない江端は、何をしても愛されない」という事実の認定から始めろ、と?」
後輩:「そうです。江端さんは量子コンピュータに対して、この半年の間、膨大な愛を注ぎ続けてきました。しかし、量子コンピュータは江端さんを愛していないんです。だから、今回のシリーズ、こんなにもスベっているんですよ」
江端:「おい……ちょっと、待て」
後輩:「私は、もう、これ以上、江端さんを見ていられないですよ。江端さんが、スクールカーストの上位にいる学校一の美少女にアタックをかけ続けて、そして振られ続ける痛い日々を ―― 『江端さん! 江端さんの器量では、彼女(量子コンピュータ)は振り向いてくれないんです! いい加減に分かってください! 努力だけでは、なんともならないことがこの世の中にはあるんです!』 ―― と。私は、今回の江端さんの連載を読み続けながら、嗚咽(おえつ)を押え切れませんでした」
江端:「……」
後輩:「江端さんを愛してくれる技術はたくさんあるじゃないですか。ラズパイでも、GPSでも、C++でも、EtherCATでも、それこそ、江端さんが憎悪する”AI”というコンセプト*)すら、それも愛の一態様です。でも、それでいいじゃないですか。量子コンピュータは、しょせんは量子の世界 ―― 異世界の住人です。江端さんとは、そもそも、住む世界が違うんですよ」
江端:「……」
後輩:「江端さんは、わずか半年だったけど『いい夢を見ていた』と思っていればいいんです ―― その痛みは、いつか、江端さんにとって、優しい思い出になる日がきます。私がそれを保証します」
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