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ナノシート構造を超える高い密度を実現するフォークシート構造のトランジスタ福田昭のデバイス通信(304) imecが語る3nm以降のCMOS技術(7)

前回に続き、「FinFETの次に来るトランジスタ技術(ナノシートFETとフォークシートFET)」の講演部分を紹介する。imecは、フォークシート構造のトランジスタの研究開発に力を入れている。

» 2021年06月24日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

ナノシート構造の長所と短所

 半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」は、「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶ技術講座を本会議(技術講演会)とは別に、プレイベントとして開催してきた。2020年12月に開催されたIEDM(Covid-19の世界的な流行によってバーチャルイベントとして開催)、通称「IEDM2020」では、合計で6本のチュートリアル講演が実施された。その中で「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials(CMOSを3nm以下に微細化する要素技術-デバイスアーキテクチャと寄生素子、材料)」が非常に興味深かった。講演者は研究開発機関のimecでTechnology Solutions and Enablement担当バイスプレジデントをつとめるMyung‐Hee Na氏である。

 そこで本講座の概要を本コラムの第298回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。

チュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials(CMOSを3nm以下に微細化する要素技術-デバイスアーキテクチャと寄生素子、材料)」のアウトライン。講演スライド全体から筆者が作成したもの。前回から「FinFETの次に来るトランジスタ技術(ナノシートFETとフォークシートFET)」の講演部分を紹介している(クリックで拡大)

 本シリーズの前回から、2番目のパートである「FinFETの次に来るトランジスタ技術(ナノシートFETとフォークシートFET)」の講演部分を紹介している。前回は、FinFET(フィンフェット)をトランジスタとするCMOSロジックの微細化限界と限界突破策の候補である「ナノシート構造」を説明した。

 FinFETでCMOSロジックの基本セル(スタンダードセル)を縮小するためには、フィンのピッチを詰める、フィンの枚数を減らす、フィンを薄くする、フィンを高くするといった手法を採らざるを得ない。すると、FinFETのフィン当たりの電流駆動能力を高めつつ、フィンごとのばらつきを縮小する必要が生じる。この課題は微細化とともに難しさを増す。

 そこで考案されたのが、FinFETのフィンを真横に倒したようなチャンネル構造(「ナノシート(Nanosheet)構造」)のトランジスタである。ナノシート構造のトランジスタ(「ナノシート・トランジスタ」あるいは「NSHトランジスタ」とも呼ぶ)は電流駆動能力が高い、ばらつきが少ないといった特長を備える。しかしimecはナノシート構造の開発にはあまり積極的ではないようだ。ナノシート構造はトランジスタ間の素子分離に、FinFETと同等以上の距離を必要とするというのが、その主な理由である。

FinFETからナノシート(Nanosheet)構造、さらにはフォークシート(Forksheet)構造への変革。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)

 imecが推すのは、「フォークシート(Forksheet)構造」と呼ぶチャンネル構造のトランジスタ(「フォークシート・トランジスタ」あるいは「FSHトランジスタ」とも呼ぶ)である。ナノシート構造を基本に重要な改良を施すことで、トランジスタ間の距離を詰められるようにした。2nm以降の世代では、フォークシート構造がトランジスタ技術の有力な候補だとする。

トランジスタ間の距離を極限までに詰められるフォークシート構造

 フォークシート構造では、絶縁膜の薄い壁を挟んでpチャンネルのナノシートとnチャンネルのナノシートが対を成す。ゲート金属の断面構造が食器のフォークに似た形状となるので、「フォークシート」と呼ぶ。

 フォークシート構造では、隣接するチャンネルとゲート金属は物理的に分離されている。このため、隣接するトランジスタ間の距離を極限にまで詰められる。すなわちCMOSロジックの基本セルを小さくできる。

フォークシート(Forksheet)構造でpチャンネルとnチャンネルのトランジスタを作り込む模式図。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)

 さらに、フォークシート構造にはナノシート構造に比べて寄生容量が小さいという利点がある。フォークシート構造のトランジスタは同じ消費電力だとナノシート構造に比べて高速に動作する。逆の表現をすると、同じ動作周波数ではフォークシート構造はナノシート構造に比べて消費電力が低くなる。国際学会IEDM2019でimecが発表した論文(論文番号36.5)によると、CMOSインバーターの15段リング発振器で比較したところ、動作周波数(同じ消費電力で比較)はフォークシート構造が10%向上し、消費電力(同じ動作周波数で比較)はフォークシート構造が24%減少した。

次回に続く

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