前回に続き、放熱技術について解説する。TSMCは同技術を「ISMC(Integrated Si Micro-Cooler)」と呼ぶ。
高性能プロセッサとその関連技術に関する国際学会「Hot Chips」が昨年(2021年)8月22日〜24日にオンラインで開催された。「Hot Chips」は高性能プロセッサの最新技術情報を入手できる貴重な機会として知られている。会期は3日間で、初日が「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶ技術講座、2日目と3日目が「カンファレンス(Conference)」と呼ぶ技術講演会となっており、講演会とは別にポスター発表の機会も用意される。オンライン開催となったことしは、あらかじめ録画されたビデオをプログラムに沿って公開する形式となった。参加登録者は開催後も一定の期間は、オンデマンドで講演を聴講できる。
初日の「チュートリアル(Tutorials)」では、13件の講演が実施された。その中で「先進パッケージング技術」に関する講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D(チップレットと3次元集積に向けたTSMCのパッケージング技術)」が極めて興味深かった。講演者はTSMCで研究開発担当バイスプレジデント(現在はシステム集積化手法開発担当バイスプレジデント)をつとめるDouglas Yu氏である。
そこで本講演の概要を第328回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前回から、異種のデバイスを集積化する技術に関する講演(「New Heterogeneous Integrations」)部分の紹介を始めた。講演で説明した技術は2つ。最初が放熱(冷却)技術、次がシリコンフォトニクス技術である。前回では既存の主要な放熱技術を簡単に解説するとともに、3次元積層モジュール「SoIC」に向けた高性能冷却技術のコンセプトを述べた。
開発中の高性能冷却技術をTSMCは「ISMC(Integrated Si Micro-Cooler)」と呼んでいる。ISMCの考え方は単純で、放熱用シリコンダイの表面に冷却水を流すことで高い放熱性能を得る。シリコンダイの表面には、溝(トレンチ)あるいは柱(ピラー)のアレイを形成しておく。こうするとシリコンダイの表面積、すなわち冷却水と接触する領域が拡大し、放熱性能が大幅に高まる。
TSMCは、放熱用シリコンダイの表面が無加工(平面(Flat))の場合と、溝(Trench)のアレイを形成した場合、断面が四角い柱(Square pillar)のアレイ(角柱のアレイ)を形成した場合で熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)を比較した。冷却水の流量が毎分2リットル(2LPM(liters per minute))で溝のアレイを形成した場合のTDPを「1」とすると、同じ流量で平面の場合は「約0.6」に低下し、角柱のアレイを形成した場合は「約1.6」に上昇する。
冷却水の流量を毎分6リットル(6LPM)に増やすと、平面のTDPは「約1.0」に、溝アレイのTDPは「約1.7」に、角柱アレイのTDPは「約2.5」に上昇する。流量を増やすことよりも、表面を加工することの効果が大きいことが分かる。
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