このため、VMwareの成長加速計画における重要な鍵は、Pivotalの買収によって形成したコンテナソフトウェア事業の成長拡大に向けて投資することだと言える。Pivotalのスタッフや、ソフトウェア、各種サービスは、「VMware Tanzu」の重要なビルディングブロックである。Tanzuを実現したVMwareの組織は、主にPivotalの出身者たちによって構成されているため、オープンソースや、アジャイル開発モデル、「DevOps」などの強力な文化を備えている。
例えば、Java SpringやSpring Bootなどの取り組みに大きく貢献したことなどが挙げられる。しかしここで、「Broadcomは、VMwareのコンテナ事業をどのように扱うつもりなのか」という疑問が湧いてくる。VMwareが“ドル箱”になって、Red Hatとの激しい競争を繰り広げるために投資を加速するという必要はない。Omdiaは、「Broadcomの経営陣がいかにコスト最適化に注力しているかを踏まえると、『VMwareのコンテナソフトウェア事業は、成長に必要な投資を受けられないのではないか。さらに悪い場合は廃止に追いこまれるのではないか』という点が懸念される」と述べる。
もしBroadcomが、ただ単にドル箱を入手するのではなく、プロセッサからアプリケーションへとコンポーネントの垂直積層を構築するのであれば、今回の買収は、その積層の中でもう1つの主要能力を提供することになるため、大きな変革をもたらす可能性がある。Omdiaは、「フルスタック戦略にどれほどの効果があるのかという疑問については、これまでしばらくの間、業界において議論の的となっていた」と指摘する。IBMとRed Hatはオープンな道を進んでいる。Dell Technologiesは、フルスタック戦略がうまくいかないと判断したのか、傘下にあったVMwareをスピンオフすることで手放した。
エッジコンピューティングを実現する上で、フルスタックモデルは非常に魅力的である。多くの企業は、適切に機能するカスタムのエッジソリューションを開発するリソースを持っていないからだ。装置/機器を購入し、その上にアプリケーションソフトを実装するだけで、システムが動作し、自社の他の環境と互換性を持っていることが確実になるならば、それほど魅力的なことはないだろう。
VMwareは大規模な顧客基盤を持ち、オンプレミスだけでなくパブリッククラウドのプラットフォームを手掛けているため、理論上は非常に有利な立場にある。一方で、スタックとしてのVMwareの技術は、より新しいオープンソースのコンテナオーケストレーションプラットフォームである「Kubernetes」と比較すると、高価である。従って、Omdiaのアナリストが提示した疑問は、「もしBroadcomがフルスタックに対して野心を抱いているならば、フルスタックをどうパッケージ化して“値付け”するつもりなのか」という点に帰着する。
BroadcomとVMware、両社の取締役会は今回の買収条件を承認しているが、この後は規制当局の承認およびVMwareの株主による承認などを得る必要がある。さらに、今回の契約では、2022年7月5日までの40日間は、VMwareは、代替案を提示する買収先と交渉できる、ゴーショップ条項が設定されている。他社からのオファーがない場合、Broadcomによる買収は、同社の2023年会計年度(2023年5月1日を末日とする)内に完了する見込みだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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