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後工程市場で日本勢の巻き返し図る、専門展示会新設へSEMICON Japan 2022で同時開催(2/2 ページ)

» 2022年08月29日 18時45分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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日本の存在感に危機感、だが「巻き返せる」

 長瀬産業 NVC室 執行役員で、APCS実行推進委員会 委員長を務める折井靖光氏は、「日本の材料メーカー、半導体製造装置メーカーの強みが、パッケージにも生かされる時代がきた」と強調し、パッケージング技術やチップレットの最新の情報を日本から発信したいと意欲を見せた。

 チップレットの概念や技術自体は、目新しいものではない。日本アイ・ビー・エムに1986年に入社した折井氏は「当時、メインフレームの性能は、チップというよりもパッケージの進化によって向上していた」と振り返る。「その時代、既に121個のチップがセラミック基板の上に搭載されていた。IBMはこの分野に非常に強く、それまでケーブルだらけだったメインフレームで、チップ同士をできるだけ短い距離で接続し、1パッケージにすべく研究開発を続けていた。その結果、TCM(Thermal Conduction Module)が開発され、日本企業も後に続いた。その後、半導体の集積化が急速に進み、全ての機能を半導体の中に搭載できるようになって、パッケージはいったん“かやの外”に置かれていたのが、これまでの状況だった」(折井氏)

 とはいえ、日本にとって状況は甘くはない。折井氏は、「日本にはOSATの大手プレイヤーが存在しないというのが大きな課題の一つ」と指摘する。「日本はもともと、3D積層の研究を国家プロジェクト*)主導で、かなり力を入れて行っていた。だが、結果的にこれは“早過ぎた”。コスト面での課題もあり、半導体パッケージ関連のビジネスが台湾や韓国に移ってしまった経緯もあって、日本ではパッケージ分野が盛り下がってきている感は否めない。そうした中でAPCSを開催すべきだと考えたのは、私も含め、後工程に携わっている日本のエンジニアがまだいるからだ。復活への道として、後工程を盛り上げていきたい」(折井氏)

*)ASET(超先端電子技術開発機構)の「ドリームチップ・プロジェクト」。

 なお折井氏は、半導体の後工程などエレクトロニクス実装に関連する国内最大規模の学会「エレクトロニクス実装学会」の副会長も務めている。半導体の前工程については「応用物理学会」が主に取り扱っている。折井氏は「エレクトロニクス実装学会で『3D・チップレット研究会』を立ち上げ、2022年7月に公開研究会を開催した際、420人が参加した。一般的に、公開研究会には100人集まれば多い方なので、420人がいかに多いかが分かるだろう。つまり、それだけ関心が高いということだ。もう一度、日本で半導体パッケージを見直していこうとする機運が高まっている。『ここでやらなければ、世界に後れを取ってしまう』という強い危機感の表れだ」と語った。「パッケージ技術については、日本はそれほど遅れているとは考えていない。十分に巻き返せる」(折井氏)

半導体の製造プロセスをめぐる動向[クリックで拡大] 出所:SEMIジャパン

後工程装置で新しいニーズも

 チップレットの開発がさらに進めば、後工程の装置や材料でも、これまでにないニーズが出てくる。

 昭和電工マテリアルズ 情報通信事業本部 情報通信開発センタ長 兼 パッケージングソリューション センタ長 理事で、APCS実行推進委員会副委員長を務める阿部秀則氏は、「例えばインターポーザは、現在はシリコンが主流だが、今後有機や、チップを埋め込んだインターポーザに変わると、新しい装置が必要になるケースも出てくる。後工程向け露光装置であれば、前工程ほどではないものの、より微細なパターンに対応できるものが必要だ」と説明した。

 折井氏は「インターポーザについては、グローバル配線の一部を基板側に作り込み、半導体の負荷を軽くするというアプローチがある。そうなると、だいぶ旧式の露光装置で対応できるが、後工程の場合は価格を抑えなくてはならないという課題がある。サイズも、300mm(ウエハー)よりも大幅に大きくなる。こうした要件に応えられる露光装置を開発する必要がある。そのためには仕様や材料を決めていく必要があり、大学なども含めて議論しなくてはならない。エレクトロニクス実装学会、応用物理学会がともに、仕組み作りに取り組んでいるので、何とか盛り上げていきたい」と付け加えた。

 チップレットに関しては、ダイ間の相互接続を定義するオープン規格「UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)」が登場している。ただ、規格策定の参加メンバー企業はAdvanced Semiconductor Engineering(ASE)、AMD、Arm、Google Cloud、Intel、Meta、Microsoft、Qualcomm、Samsung Electronics、TSMCの10社で、日本企業の名前はない。折井氏は「われわれの方でも、なぜ日本企業が入っていないのかという議論を行っているさなかだ。仕様や規格策定に直接携わるには、その技術(今回で言えばチップ同士を接続する技術)を持っていないと難しいという側面もあるが、どのような仕様になるのかをしっかりウォッチしていく所存だ。今回、APCSの基調講演でIntelのフェローを招へいしているが、それには規格関連の話もしてほしいという狙いがある」と語った。

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