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コロナ特需の終焉 〜その兆候は2021年7月に現れていた湯之上隆のナノフォーカス(54)(5/5 ページ)

» 2022年09月20日 11時30分 公開
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コロナ特需とシリコンサイクルの結論

 2020年中旬から2021年にかけて始まった半導体市場の急成長は「コロナ特需」という一過性の現象であると言える。この「コロナ特需」は、出荷額と出荷個数およびその成長率の分析から、2021年の後半にピークアウトし、終焉した。

 多くの記事では2022年中旬に半導体市況が変わったと言われているが、定量的に分析すると、もっと早い2021年Q3〜Q4にその兆候が現れていた。

 4種類の半導体に分けて分析してみると、2021年中に全ての種類の出荷個数の成長率が下落していた。最も早かったのはLogicとAnalogの2021年6月で、Mos Microが同年7月、Mos Memoryが同年9月の順に下落していることが分かった。

 今までは、出荷額の成長率を基に「シリコンサイクル」という現象が議論されてきた。しかし、今回のケースで、出荷個数の「シリコンサイクル」の方が、いち早く不況の兆候を捉えることができることが判明した。今後は、この「新しいシリコンサイクル」に注意を払うべきだろう。

 しかし、なぜ、出荷額より先に出荷個数がピークアウトするのだろう? また、成長率においても、出荷個数の方が出荷額より早く下落するのは、なぜなのか?

新しいシリコンサイクルのメカニズム

 実は筆者は、出荷額より先に出荷個数が減少するメカニズムについては、解明できていない。これは、非常に不思議な現象であると思っている。以下では、あまり確信は持てないが、一つの仮説を述べてみよう。

1)まず、半導体メーカーが、出荷先のカスタマーなどの状況を分析して、「もうそろそろブレーキを踏んだ方が良いのではないか?」と判断し、生産量と出荷量を減じる

2)しかし、その時点で業界では、「半導体が足りない」という空気が漂っており、出荷された半導体の価格が高騰していく

3)価格が高騰するから、出荷個数が減少しても、出荷額が増大するという、一種のねじれ現象が起きる

4)その状態で、さらに半導体メーカーが、出荷量を減少させていくため、あるところで出荷額も下落に転じる


 やはり、本当にこんなことが起きるのかという疑問は残る。今後も半導体の出荷額と出荷個数の上下動は続くだろう。その過程の中で、上記の仮説を検証してみたい。もし、読者諸賢の中で、解明できた方がおられたら、こっそり教えてください。何卒よろしくお願いいたします。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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