Yole Groupは、米国の対中輸出規制の影響は大きいが、「メモリは中国の半導体エコシステムにとって戦略的優先事項であり続け、中国は主力メモリ企業存続のためあらゆる手を尽くすことは確実だ」としている。
フランスの市場調査会社Yole Group(以下、Yole)は2023年5月10日(フランス時間)、米国の対中輸出規制が中国メモリ市場へ与える影響に関する調査内容を発表した。それによると、2022年10月に米国が発表した新たな対中輸出規制は中国メモリ産業に大きな困難をもたらしているものの、「中国は半導体メモリへの野心を後退させる気配はない」という。
Yoleによると、世界のメモリメーカーが製造するNAND型フラッシュメモリ(NAND)やDRAMの30%以上を中国企業が購入している一方で、中国のメモリ自給率は現在15%以下となっていて、「中国のメモリ消費量と生産量の間の大きなギャップは、NAND/DRAMの自国内生産を拡大したいという中国の望みに拍車を掛けている」という。
米国の新たな対中輸出規制は、最先端機器メーカーを含む米国企業が、中国企業に対して特定の技術を輸出することを禁止している。当該技術には、中国の主要なメモリメーカーである、YMTCおよびCXMTが競争力をつけるために不可欠な、最先端NANDおよびDRAMの製造装置に関連するものも含まれている。
YMTCは中国における主要NANDメーカーで、Yoleによると現在64層と128層のNANDを中国内で出荷している他、独自の3D NAND技術「Xtacking 3.0」アーキテクチャによる232層NANDも初期生産中だという。しかし、2022年12月に同社が米国商務省のエンティティリスト(Entity List)に追加され、米国企業は輸出許可が下りない限りYMTCに製品/サービスを提供できなくなった。Yoleは、「このため、YMTCのウエハーのランプアップは月産11万5000〜12万枚が上限となり、主要な装置ベンダーからのサポートが得られないため技術ロードマップも保留されるなど、NANDの進捗が停滞する可能性がある」と述べている。
Yoleによると、こうした状況からYMTCは、半導体装置や材料の主要メーカーが集まる日本、台湾、韓国などに活路を見いだそうとしているという。また、同社は「Wudangshan」というコードネームの非公開プロジェクトや、国営投資家からの70億米ドル規模の資金提供を通じ、中国の装置メーカーとの連携も強化。Yoleは、「最近、YMTCは地元の装置メーカーに重要な発注を行った。その中には、Lam ResearchやApplied Materialsなどの米国企業のサポート不足を緩和するのに役立つエッチング/蒸着装置サプライヤーであるNaura Technologyもいる」と説明している。
CXMTは2017年の設立後、中国におけるDRAMの主力企業として急成長したメモリメーカーだ。同社は、エンティティリストには追加されなかったものの、ロードマップの実行において大きな課題に直面しているという。Yoleによると、同社の初期生産(第1世代、27nmまでのプロセス相当。DDR4およびLPDDR4)は既に利用可能。第3世代(1xnmプロセス相当)は現在ランプアップ中という。ただ、同ノードへの前工程装置サポートは対応は輸出規制によって困難になるとみられ、CXMTのロードマップは大幅に遅れる可能性が高いという。
Yoleは、「YMTCと同様に、CXMTも逆風に立ち向かうために必要なリソースを集めるために迅速に対応している」と説明。2023年4月19日にBloombergが報じた、「CXMTが140億米ドル以上の評価額でIPOを目指す」というニュースに触れ、「創業6年の会社としては驚異的な数字だが、これは、グローバルサプライヤーによる研究開発費や設備投資が、2年間で一桁億ドルを軽く超えるような、世界のメモリ産業の文脈から考えるべきだ」などと述べている。
Yoleは、こうした資金面の努力は、米国の貿易制限の影響緩和に役立つものの、中国のメモリ産業は今後も大きな課題に直面することになるだろう」と言及。米国、日本、韓国の競合に追従するためには、多額の投資だけでなく、相当な専門知識と技術開発が必要であり、また、米国政府がこうした制限をさらに強化し、中国企業が必要な技術にアクセスすることがさらに困難になる可能性も挙げている。
Yoleは、「結論として、米国の貿易制限は、輸入技術に大きく依存する中国のメモリ産業にとって大きな困難をもたらすものだ。しかし、中国はメモリへの野心を後退させる気配はない。それどころか、政府からの強力な資金援助によって、中国のメモリ企業は自国内の装置ベンダーを支援し、NANDやDRAM製造のための最先端ツールの開発を加速させることも可能だ」と指摘。「中国のメモリ産業の将来は依然として不透明だが、はっきりしているのは、メモリが中国の半導体エコシステムにとって戦略的優先事項であり続けること、そして中国は主力メモリ企業のYMTCとCXMTを存続させるためにあらゆる手を尽くすことだ」とまとめている。
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