Lam Researchの「Pulsus PLD」は、半導体量産向けのPLD(パルスレーザー堆積)技術である。高濃度のスカンジウムを含む窒化スカンジウムアルミニウム(AlScN)を成膜できるので、5G(第5世代移動通信)などのRFフィルターや、MEMSマイクなどの性能を向上させられるという。
ある技術が幅広い影響力を持つためには、短期的な課題を解決する以上のことを実現しなければならない。また、既存技術の進化の枠を超える以上のものを実現し、未来のイノベーションへのドアを開く必要がある。Lam Research(以下、Lam)が2024年3月に発表した半導体量産向けPLD法(pulse laser deposition:パルスレーザー堆積)技術「Pulsus PLD」は、そうした技術の一つになり得るのではないか。
Pulsus PLDは、ウエハー上に薄膜を形成する手法をまた一つ進化させる。成膜可能な複雑な複合材料の幅を広げ、反応性スパッタリングなどの既存技術では不可能だった方法で薄膜層を実現できるようになる。
次世代のMEMSベースのマイクロフォンをはじめ、5G(第5世代移動通信)やWi-Fi向けのRFフィルターなどにおいて重要な役割を果たすだろう。
半導体製造プロセスでのレーザーの使用は、決して新しいものではない。実際にPLD法は、研究所規模では数十年間前から使われている。パルスレーザーショットを使用して材料に電圧を印加し、さまざまな基板上に凝縮することが可能な蒸着を実現する、物理蒸着法だ。しかし、1日当たりのウエハー処理枚数が多くても数枚と、非常に少ないことが課題になっていた。
最近まで、このような高度な堆積技術を量産向けに適用するというニーズはなかった。しかし、複数の製品分野において消費者需要が高まってきたこともあり、量産適用が求められるようになっていた。量産に適用するには、膜の均一性、システムの粒子フィルタリング、ツールそのものの成熟度などがあった。
ファブスケールのPLDは今や、製造プラットフォームに統合され、既存の蒸着法と比べるとウエハー1枚当たりわずかなコストで非常に優れた膜均一性と品質を確保しながら、安定した薄膜性能を持つウエハーを生産することが可能だ。このような機能強化により、半導体メーカーは製造歩留まりを高めながら、コストを削減することができる。
PLDは、従来型のスパッタリング技術を採用するのではなく、高出力レーザーパルスを原材料に照射することで蒸着を行う。原材料は気化して超高エネルギーのプラズマに変化し、ウエハー上に素早く移動して薄膜に蒸着される。つまり、求められる組成/特性のターゲットにレーザーパルスを照射すると、同じ組成/特性の薄膜をウエハー上に堆積させることができるのだ。
同技術の主なメリットの一つは、スカンジウムを多く含む窒化スカンジウムアルミニウム(AlScN)を成膜できることだ。これにより、ワイヤレス通信向けのデバイス開発を発展させることができる。
5G/Beyond 5Gでは、高速なデータ伝送を実現するために、より高い周波数帯域あるいは、異なる複数の周波数帯域を使用して帯域幅を増やす必要がある。そのため、従来よりも高性能なRFフィルターが多数必要になる。AlScNにおけるスカンジウムの濃度を高める(高スカンジウム含有膜)と、RFフィルターの性能を向上させられる。LamのPLDは、高品質な膜特性を維持しながら、従来は30%が限界だった膜中のスカンジウム濃度を、少なくとも40%に高めることが可能だ。
MEMSマイクロフォンでも、高スカンジウム含有膜により、圧電性能や誘電損失が改善し、S/N比を高めることができるようになる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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