東京科学大学と産業技術総合研究所、信越化学工業らによる研究グループは、ヘテロエピCVD成長により、大面積のダイヤモンド結晶基板を作製、この基板を用いて高精度の量子センサーを開発した。EVに搭載される電池モニターや生体計測などへの応用が期待される。
東京科学大学(Science Tokyo)と産業技術総合研究所、信越化学工業らによる研究グループは2025年2月、ヘテロエピCVD成長により、大面積のダイヤモンド結晶基板を作製、この基板を用いて高精度の量子センサーを開発したと発表した。EVに搭載される電池モニターや生体計測などへの応用が期待される。
ダイヤモンドは、量子材料として高いポテンシャルを有する。研究グループはこれまで、空孔複合体(NVセンター)を応用した量子センサーの研究を行ってきた。ダイヤモンド量子センサーに用いる合成ダイヤモンド結晶基板を作製する方法としては、「高温高圧法(HPHT法)」や、HPHT法で形成したダイヤモンド結晶上にホモエピタキシャルCVD成長させる方法(CVD法)が、これまで用いられてきた。ただ、これらの方法だと口径が数ミリメートルの基板しか作製できず、量産性に課題があった。
研究グループは今回、異種(非ダイヤモンド)基板上にヘテロエピCVD成長技術でダイヤモンド層を形成した。しかも、作製したダイヤモンド結晶基板は、量子センサーに適した(111)結晶方位とコヒーレンス時間を備えており、その口径も10mm以上だという。NVセンターのコヒーレンス時間(T2)は、20マイクロ秒以上であった。
量子センサーは、合成したダイヤモンド結晶基板を2mm角に加工して光ファイバーの先端に実装した。また、結晶方位を調整できる精密アライメント機構を備えたセンサーホルダーも用意した。このセンサーを測定対象(バスバー)の上下に配置して差動動作させることで、磁気シールドなしでも20nT/√Hz以上の磁気感度を達成した。このセンサーを用いると10mAという高い精度で電流計測が行え、EVに搭載された電池のモニターに適用できることを実証した。
今回の研究成果は、東京科学大学工学院電気電子系の波多野睦子教授と岩崎孝之教授、産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターの牧野俊晴研究チーム長と加藤宙光上級主任研究員および、信越化学工業精密機能材料研究所の野口仁主任研究員らで構成される「文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」の研究グループによるものである。
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