高橋氏は今回、2027年度を最終年度とする中期経営計画(以下、中計)の取り組み状況を説明。その中で「特に中国向けの売り上げの急減を受け、優先度を上げて取り組む課題を設定し、挽回を図る活動を行っている」と述べ、具体的に固定費の削減と経費コントロールの最適化、金相場の高騰などを受けた材質変更や、プラットフォーム化範囲の拡大による「原価低減」の他、「トップライン積み上げ施策」を挙げた。
このトップライン積み上げ施策で実施しているのが「他地域/新市場拡販」だ。貿易摩擦や関税の影響を勘案しつつグローバルに製品を拡販を進める方針で、高橋氏は「サンケンコアは特に中国や韓国をはじめとするアジア顧客向けの比率が高いため、他の地域、例えば欧米やインドへの拡販を進行させることが重要だ」と語っていた。さらに新市場拡販では「産機領域で業務用空調向けIPMに取り組んでいるが、AIデータセンター向けの空調/冷却システムもその対象に入れて進めていく」とした。
トップライン積み上げ施策で焦点を当てるのが、サンケン電気のパワーモジュール売り上げの中心をなすIPMだ。同社は白物家電、自動車、産機へと注力領域を広げ、ラインアップを充実させるため開発を進めてきた。白物家電向けでは、まず数量ボリュームを確保しベース売り上げを獲得してきたが「中国向けの急減を受け、製品の小型、高効率で高機能化を図り、中国以外の地域で拡販を可能とする製品の開発を進めている」とした。
サンケン電気は、開発効率向上を目的としたプラットフォーム技術「SPP(Sanken Power-electronics Platform)」に基づく新製品開発を通じて、迅速なラインアップ拡充を進めてきた。高橋氏は、前述の韓国顧客向け新製品では「SIM2」パッケージが採用されたことを挙げつつ、「白物家電の低容量なものから、自動車や業務用空調などの産機領域でも省エネ/高効率のニーズが高まっている。『SAM2』をはじめとする新世代の共用パッケージは650V以上、1200Vの高耐圧領域もカバーでき、フレキシブルな製品ラインアップの拡充に貢献している」と強調した。またTSMCの22nmプロセス活用のMCUを搭載したデジタルIPMも順次リリース予定といい、「インバーターの制御と高機能のプロセスをMCUに取り込んだ次世代のIPMとなる」とも説明した。
同社はさらに、パウデックの買収および吸収合併によって獲得した独自のGaN技術「PSJ GaN」搭載のIPMについても、白物家電向けからはじめ、高耐圧領域へ幅広く展開していく方針だ(同社のGaN戦略詳細については下記リンク参照)。高橋氏は、こうした小型、高効率、高機能な要素技術の組み合わせによって、産機市場向けでは「業務用空調の一段上の高耐圧仕様を狙ったIPMもPSJ GaNやSiCを搭載したモデルで実現させ、AIデータセンター向けの空調や液冷システムへの拡販も予定している」とした。
同社が示した資料では、このAIデータセンター向けではPSJ GaN搭載の1200V、30〜50A対応のSAM2パッケージ品を、SiCでは1200V、50A対応のSAM2パッケージ品をそれぞれ開発中だとしている。
具体的なスケジュールは明かしていないが、PSJ GaNについては白物家電および民生向けの小電流領域製品の開発を先行していて、データセンター向けはその後段階になるという。SiCについても、自動車などの別の市場に向けたものの開発が先行しているといい「それらを仕上げつつ、データセンターの使用状況などの条件を調査したうえで開発を進めていく」とした。
なお、AIデータセンター向けとしては業務用空調向けで展開する既存品でも対応できる製品があり「現在、検討を進めている顧客がいる」段階だという。同社は、まずはIGBTを主体とした既存シリコンデバイス搭載モジュールで市場に参入したうえで、「より省エネや競争力がある製品としてGaNやSiCを用いたモジュールで攻めていきたい」(高橋氏)としている。
独自技術で攻めるサンケン電気のGaN戦略 30年には縦型量産も
スイッチング損失を20%低減、車載用高圧3相モーター用ドライバー
GaNパワー半導体市場で拡大狙うサンケン電気、パウデックを吸収合併
22nmとRRAMを活用、パワー制御システム用RISC-Vマイコン
CHIPS法の成功事例となるか パワー半導体ファウンドリーを目指すPolar
白物家電を小型化 高圧3相モーター用ドライバーCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
記事ランキング