情報通信研究機構は、データ伝送速度が40Gビット/秒と高速な無線伝送システムの実証に成功した。
「電波を使った無線通信を、どこまで高速化できるのか追求した成果だ」――。情報通信研究機構(NICT)は、データ伝送速度が40Gビット/秒と高速な無線伝送システムの実証に成功した(図1)。「電波を使った無線通信としては世界最高のスピード」(NICT)という。大阪大学と共同で開発した。
40Gビット/秒と高速のデータ伝送を実現できた理由は、極めて広い周波数帯域を確保できる光通信の技術を活用したことにある。これまでは、無線通信分野の信号処理技術を光通信に展開するという事例が多かったが、今回はその逆だ。「光ファイバー通信に使われているデジタル光コヒーレント変調技術を、無線通信技術に適用した」(NICT)。
開発した無線伝送システムの構成の概略図を、図2に示した。まず、「光によるミリ波発生装置」を使って、波長1.5μm帯(周波数は200THz)の光信号を生成する(光によるミリ波発生装置についての発表資料)。生成した光信号には2つの波長にピークがあり、その差の周波数がミリ波帯の高周波信号の周波数に相当する。その後、「16値光変調器」と「光・ミリ波変換器(光検出デバイス)」を介して、変調が施されたミリ波帯の高周波信号を空間に放射する(世界最高速度の16値光変調器開発についての発表資料)。
変調方式には、QAM(Quadrature Amplitude Moduration)を採用した。高周波信号の中心周波数は90GHz、帯域幅が20GHz程度である。変調レートは10GBaud(ボー)に達する。Baudとは、1秒当たりに変調できる回数の指標。16値QAM変調では、1回の変調で4ビットを送れるため、データ伝送速度は40Gビット/秒と計算できる。
一方の受信側では、90GHz帯の高周波信号を75GHzの局部発振器を使って、15GHzまでダウンコンバードする。その後、この高周波信号に直接A-D変換を施してデジタル信号に変化し、デジタル領域でダウンコンバートし、ベースバンド信号を抽出する。「精度良く復調するための位相推定技術に独自性がある」(NICT)という。
伝送距離は3cmと短い。これは、出力電力が0.25mWと小さいからだ。高出力のパワーアンプを使うなどして出力を高めたり、アンテナの改良を進めることで、伝送距離を伸ばせるという。例えば、出力電力が5Wのパワーアンプを使うことで、伝送距離を50cmまで伸ばせることを、シミュレーションで確認している。
「利用者が、無線通信であることを意識せずにデータ通信を利用できるようになるには、現在の無線通信の高速化をさらに進める必要がある。目標は、光通信のスピードだ」(NICT)(図3)。
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