センサーネットワーク向けの無線通信規格として登場したZigBeeだが、長らくキラーアプリケーションが存在しなかった。だが、ZigBee用半導体チップを手掛けるシリコン・ラボラトリーズは、「電子機器同士をつなぐモノのインターネット(Internet of Things)市場の成長により、ZigBee製品が大きく伸びる可能性がある」とみている。
短距離無線規格としてZigBeeが登場したのは約10年前のことだ。家電とセンサーを組み合わせたホームオートメーションをはじめ、ファクトリーオートメーション、ビルディングオートメーション向けのネットワークを構築する目的で策定された。他の無線規格に比べると伝送速度は遅いが、メッシュ型のため柔軟なネットワークを構築できる他、消費電力が非常に低いという特長を持つ。
だが、これまでは、ZigBeeが爆発的に普及するきっかけとなるような、いわゆるキラーアプリケーションが存在しなかった。そのZigBeeにとって大きな転換期となったのが、スマートグリッドが注目を集めた2010年である。スマートグリッドに欠かせないスマートメーターにZigBeeが採用されるようになったためだ。さらに、スマートグリッドをきっかけに、“モノのインターネット(IoT:Internet of Things)”の普及が進んでいる。
各種センサー端末から家電、インフラ機器まで、あらゆるモノに通信機能を組み込んでネットワーク化する“モノのインターネット”は、地球に張り巡らされるエレクトロニクスの神経網だ。そこで捉えた膨大な情報から価値のある情報を抽出すれば、まざまな課題を解決する有力な手段になる。 →記事全文はこちらから
ミックスドシグナルICを手掛けるシリコン・ラボラトリーズで無線組み込みシステム事業のジェネラルマネジャーを務めるRobert LeFort氏は、「あらゆる電子機器がつながるIoTでは、消費電力が低く信頼性が高いネットワークが要求される。暗号化機能を含むZigBeeは、消費電力と安全性の両面において、IoTのネットワーク構築に適した規格だと言えるだろう。われわれの生活を便利にするIoTは、大きな成長が期待できる市場だ。スマートメーターのように、ZigBee製品にとってハイボリュームとなる用途が出てくると見込んでいる。成長軌道に乗るまでに長くかかったZigBeeだが、ようやく最適な市場が見つかったのではないか」と語る。
このように、用途拡大が期待されるZigBee市場において、「チップからソフトウェア、開発ツールまでトータルで提供できるのが、シリコン・ラボラトリーズだ」とLeFort氏は主張する。
シリコン・ラボラトリーズは2012年11月5日、東京都内で記者会見を開催し、IoT向けのZigBee製品群として「Ember ZigBee ソリューション」を追加したと発表した。同社が2012年5月に買収を発表した、ZigBeeチップベンダーのEmberが開発していたものである。
同ソリューションは、ARMコアベースのSoC(System on Chip)である「EM35x」シリーズ、プロトコルスタック(ソフトウェア)「EmberZNet PRO」、およびZigBee向け開発ツールで構成する。SoCは、プロセッサとしてARMのCortex-M3コアを搭載する他、RF送受信回路やメモリ(フラッシュメモリとRAM)などを集積している。フラッシュメモリの容量が128Kバイトの「EM351」と、192Kバイトの「EM357」があり、1万個購入時の単価はそれぞれ4.76米ドル、5.07米ドルだ。
LeFort氏は、「われわれの一番の強みは、ソフトウェアだ」と述べる。その根拠は、このソリューションの開発元であるEmberがもともとはネットワーク用ソフトウェアの開発を手掛けていたからだ。「ZigBee向けのチップを提供するメーカーは他にもあるが、こうしたメーカーは、チップとサンプルコードしか提供できない」(同氏)。それに対しシリコン・ラボラトリーズは、ソフトウェアの開発に強みを持つEmberを取り込むことで、プロトコルスタックや開発ツールまで含めた包括的なソリューションを提供でき、ユーザーである機器メーカーの開発期間を短縮できると主張する。
さらにシリコン・ラボラトリーズは、無線通信用ICのラインアップについても、「以前からSub-GHz帯に対応する無線ICを手掛けており、Emberを買収したことで、2.4GHz帯(ZigBee)とSub-GHz帯向けの製品ポートフォリオがそろった」(LeFort氏)としている。
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