富士通研究所は、研究開発戦略説明会を開催した。3年ぶりに研究開発テーマの位置づけを見直したほか、研究戦略を策定する4つの推進室を設置し、研究開発を加速させる。同時に12年度の主な研究成果も公開し、指で直感的に操作できる新しいユーザーインタフェース(UI)などを初めて披露した。
富士通研究所(以下、富士通研)は2013年4月3日、神奈川県川崎市の本社で、研究開発戦略説明会を開催した。3年ぶりに研究開発テーマの位置づけを見直した他、研究戦略を策定する4つの推進室を設置し、研究開発を加速させていく。同時に2012年度の主な研究成果も公開し、指で直感的に操作できる新しいユーザーインタフェース(UI)などを初めて披露した。
富士通グループは、ICT(情報通信技術)の利活用によって人がより豊かに安心して暮らせる社会「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現を中長期の経営ビジョンとして掲げている。「グループの発展を先進テクノロジーで支えることが役割」(富士通研社長の富田達夫氏)という富士通研も、同ビジョンに沿った研究開発を行っている。
「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現に向けて取り組むのが、クラウドサービス、モビリティサービスなどの提供を通じた「人が活動する場でのイノベーション実現」、ビッグデータやセキュリティ技術による「ビジネス・社会を情報装備」、統合・最適化されたICTによる「End-to-Endで全体最適化」という3つのアクションである。同時に、これらの3アクションに共通する「技術力」や「品質・信頼性」といった基盤の拡充も進める。
富士通研では、3アクションの実行と、共通基盤強化に向けた研究を、事業化の時期ごとに3つに分類している。今後1〜2年程度でのビジネス貢献を見込む「事業戦略テーマ」、今後5年程度の中期で成果を目指す「骨太テーマ」、そしてその先を見据える「シーズ指向テーマ」である。各テーマへの研究予算配分は、事業戦略テーマと骨太テーマを各4割、シーズ指向テーマ2割にしている。
2013年度は、3年ぶりに各研究開発案件と事業との整合性などを見極め、分類するテーマの見直しを実施。各研究開発案件に最適な研究資源を配分できるようにした。同時に、中期的な成果を目指す「骨太テーマ」内での分類も「3アクション、共通基盤強化に沿って切り口をシンプルにした」(富田氏)という。
新たな取り組みとしては、より的確な研究開発戦略の策定を目指して4つの推進室を設置した。ライフイノベーション研究推進室、モビリティ研究推進室は、富士通グループ内で持つさまざまな技術を見渡しながら、新市場・ビジネスに向けた開発を始動させる役割を担う。ATO(Academic Technology Outlook)推進室、オープンイノベーション推進室は技術情報、技術動向の収集、把握機能の強化などを狙って設置した。
説明会では、2012年度の主な研究開発成果として14件の技術展示も実施した。初めて公開された成果は、「指で直感的に操作可能な次世代UI」と、「リンクが張られた公開データ(LDO/Linked Open Data)向け大規模データ格納、検索技術」の2件。
次世代UIは、チラシや手書きのメモ、ノートの書き込みといったアナログ情報を、ICTとより手軽に連携させるというコンセプトで開発。2台のカメラで、アナログ情報を認識するだけでなく、手指の動きも3次元的に検知し、自然なジェスチャ操作で文書の取り込みなども行える。プロジェクタも備え、操作用アイコンや取り込み状況の把握なども表示可能だ。さながら、チラシを置いた机の上や、メモを貼り付けたホワイトボードを、スマートフォンやタブレット端末の画面上に再現するような感覚で、紙媒体の情報を取り込んで表示できるというわけだ。
富士通研では、カメラ、プロジェクタ、実世界(机の上やホワイトボードなど)という3つの座標系を自動で調整する技術や、照明の明暗、手指の個人差など使用環境に左右されない安定した手指抽出/形状認識技術を開発したことで、新UIを実現した。富士通研は2014年度中の実用化を目指す。
その他、2013年2月のISSCCで発表した、CPU間データ通信で世界最高速を実現する高速送受信回路技術(関連記事:CPU間データ通信速度で32Gbpsを達成、富士通研が新たな送受信回路を開発)や、汎用的な通信速度が10Gbpsの通信機器に用いる部品を使って、100Gbpsの高速通信に対応するための光伝送技術の動作デモも行った。
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