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「量子通信の実現に大きな突破口」、NICTが中継増幅技術を開発有線通信技術

情報通信研究機構(NICT)などは、量子通信を長距離化する新しい「中継増幅技術」の実証に成功したと発表した。NICTは「量子暗号の長距離化や量子通信の実現に大きな突破口を与えるもの」としている。

» 2013年05月13日 17時31分 公開
[EE Times Japan]

 情報通信研究機構(NICT)は2013年5月13日、ソウル国立大学と共同で量子通信を長距離化する新しい「中継増幅技術」の実証に成功したと発表した。受信側にあらかじめ大きな振幅を持つ「量子重ね合わせ状態」という特殊な光を用意し、その光に送りたい光信号の情報を転写する技術で、量子暗号の長距離化や量子コンピュータの回路の構築にも使えるという。

 量子通信は、量子コンピュータを用いた新しい受信方式である量子デコーダを使い、現在より桁違いに小さな送信電力で大容量通信を実現する技術である。量子通信では、盗聴不可能な暗号通信「量子暗号」なども可能になる。しかし、信号の量子力学的性質は、回線内の損失や雑音によりすぐに壊れてしまうため、容易に長距離化できない。量子暗号の長距離化、量子通信の実現には、光信号の量子力学的性質を保ったまま、その振幅を増幅する技術が必要なほか、雑音の混入もほぼ完全に防ぐ必要があるという。

 今回、開発した技術は、光信号の量子力学的性質を保ったまま、遠く離れた地点に大きな信号として増幅して再生するもの。NICTでは「量子増幅転送」と名付けている。

量子増幅転送の仕組み 出典:情報通信研究機構

 具体的には、受信側にあらかじめ大きな振幅を持つ量子重ね合わせ状態という特殊な光を用意し、その一部を分岐して光回線を介して送信側へ送り共有しておく。送信側は、共有した光を送りたい信号と合波し、2つのビームの光子(光のエネルギーの最小単位)を検出。その結果に応じて受信側で量子重ね合わせ状態を適切にフィルタリングし、信号の再生増幅を行うというもの。

 実証実験では、高純度の量子重ね合わせ状態を生成、制御することにより、信号エネルギーの8割が失われる大きな損失を持つ光回線でも、無雑音のまま最大3倍まで増幅された信号を受信側で再生することができたという。受信側で用意する量子重ね合わせ状態の振幅をさらに大きくすることができれば、原理的に距離や増倍利得を幾らでも増やすことができるという。NICTは今回の成果について「量子暗号の長距離化や量子通信の実現に大きな突破口をあたえるもの」としている。

 量子増幅転送は、光を用いた量子コンピュータのゲート機能の実現や回路内での信号増幅にも利用できるという。NICTでは今後、光集積化技術を用いて実験系をさらに小型化し、量子暗号の長距離化や量子受信機の研究開発に適用していき、最終的には「量子暗号、量子コンピュータ、量子通信を光インフラの上でシステム統合するインタフェース技術の開発につなげていく」としている。

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