NXPセミコンダクターズは、日本国内での売上高を今後3年間で倍増させるアグレッシブな事業目標を打ち出している。日本法人社長の原島弘明氏に売り上げ倍増に向けた事業戦略について聞いた。
欧州の大手半導体メーカーであるNXPセミコンダクターズ(以下、NXP)。2006年にフィリップスから分離独立し、「世界1位/2位のポジション」を誇る製品分野に集中する明確な事業戦略で、経営再建を果たし、再び事業規模を拡大させる段階に突入している。
しかし、日本市場に限っては、NXPが集中する製品分野の多くで、有力な国内半導体メーカーと競争関係にあり、世界1位/2位のポジションながら国内ではそれ以下という製品分野が少なくない。多くの外資系企業でもそうであるように、NXPにとって日本市場は、「思い通りにいかない難しい市場」に他ならなかった。
その中で、2012年11月に国内大手半導体メーカーで20年以上にわたる営業経験を持つ原島弘明氏が日本法人(NXPセミコンダクターズジャパン)の社長に就任した。「NXPの認知度を上げ、2015年には、日本の売上高を2012年比2倍に引き上げたい」と語る原島氏に、日本法人社長としての事業戦略について聞いた。
――社長就任から9カ月が経過しました。NXPという企業の印象はいかがですか。
原島氏 とにかく、経営的な決定の早さに驚いている。NXPは、2006年にフィリップスから独立して以来、事業の選択と集中を進めてきた。その中で、集中する事業を選択するためのプロセスがシステム化されていて、早い決断が下される。それらの決定がシステム化されていること自体は、良い面、悪い面があると思うが、少なくとも、激しいスピードで環境が変わる今、NXPという企業には合致している方法だと考えている。
――企業文化、業務に慣れてこられた今、日本法人社長としての目標は、どのあたりに置かれていますか。
原島氏 NXPは、これまでの事業選択により、世界ナンバー1、ナンバー2のシェアを誇る製品分野に集中する戦略を進めてきた。ラジオチューナーICやキーレスエントリー用ICといった車載分野では、国内でも海外同様の高い地位を確立できている。だが、それ以外の部分では、まだ成長の余地が残る分野が多い。シェアが世界1位、2位にもかかわらず、国内では、NXPがその分野の製品を展開していることに対する認知が十分でない分野もある。その代表例が、汎用ロジックやディスクリートなどの汎用製品分野だ。
日本法人社長に就任したからには、まずは、汎用製品など日本では十分認知されていないが、NXPが世界ではトップサプライヤとなっている製品を知ってもらうという意味も含めて、「NXPの認知度」を高めることが目標だ。
同時に、車載分野以外の製品でも海外同様の水準のビジネスに育てることで、NXPグループ内での日本法人の地位、発言力を高めたい。そして、最終的には、厳しい環境に置かれている日本の製造業の発展に貢献したいと考えている。
――日本での認知度アップ、グループ内での日本法人の地位向上といった目標に向けた具体策をお教えください。
原島氏 目標達成に向けて、就任後3カ月程度で事業の方向性など詳細な事業計画を立てた。その事業計画では、3年後の2015年に2012年比2倍の売り上げ達成を掲げている。この事業計画の内容は、本社などからも高く評価され、日本への期待感は高まっている。
――日本の半導体需要が伸び悩む中で、3年間で売上高倍増という目標はかなり高いハードルのように思えますが。
原島氏 簡単ではない数字であることは確かだが、十分に実現可能な数字だと考えている。
NXP全体では、5つのビジネスユニットの売り上げがほぼバランスしている。しかし、日本に限っては、車載向けのビジネスユニット関連の売り上げ比率が6割強と突出している。
その車載市場は、今後も緩やかながら着実に成長を続けるだろう。日本法人に限れば、車載向け売上高で年10%以上の成長が維持できる公算が高くなっている。こうした車載向けビジネスの堅調さが、売り上げ倍増のベースにある。
そこに、海外に比べビジネス規模が小さい車載向け以外の製品の売上高を拡大させ、売上高倍増を実現する。
――注力する車載向け以外の製品とは。
原島氏 1つは、先にも述べた汎用製品。もう1つが、NFC(近距離無線通信)に代表されるアイデンティフィケーション(ID)製品だ。
――標準ロジック、ディスクリートといった汎用製品は、国内に有力な競合が存在しますが、販売拡大に向けて必要なことは何でしょうか。
原島氏 過去は、「わざわざ汎用製品を外資系から調達しなくても」ということで、海外メーカーへの門戸は閉ざされていた。しかし、2011年の東日本大震災、タイでの洪水災害を経験し、BCP(事業継続計画)の観点から、その門戸は、開いた状況にある。
このチャンスの時期に、われわれの汎用製品市場での世界的な地位を強調し、その認知度を高めさえすれば、必ず売り上げに結び付くと思う。これら汎用製品は、生産量が多いほど利点がある分野だからだ。生産量が多ければ、コストダウンできるし、EOL(生産中止品)を多く出さずに、幅広い製品群を維持できる。標準ロジックは、われわれは世界シェア2位を自負し、数量ベースでは首位だと考えている。ディスクリートもシェア首位を狙える2位の位置にあるだろう。
――汎用製品でのNXPの認知向上に向けた活動としては、どのようなことをされていますか。
原島氏 まず、営業リソースの強化を行っている。日本法人のセールスは、徹底して戦略的顧客への提案を実施する体制にし、マスマーケット市場に対しては、代理店のネットワークをフルに活用できるような強化も実施している。売り上げ規模拡大に応じて2014年までに、さらにもう1段、販売体制を拡充する予定だ。
そして、トップセールスが重要だ。汎用製品は、比較的、開発現場に近いところで採用が決定すると思いがちだが、各顧客企業のエグゼクティブ、キーマンとの信頼関係の構築が重要だ。国内の競合メーカーは、当たり前のように、こうしたトップ営業によるリレーションの構築をしてきたが、これまでのNXPはそれが十分ではなかった。就任以来、日本法人会長の山口(=山口純史氏)とともに、エグゼクティブとの接点を増やしている。
その結果、われわれの汎用製品でのポジション、力を知ってもらえ、採用が着実に広がっている。2013年は、2012年比10%以上の伸びが見込め、2014年はさらにそれよりも大きな伸長を計画している。ただ、外資系のわれわれにチャンスがあるのは、今だけかもしれない。今が勝負の時だと考え、特に重点を置いて、販売に取り組んでいる。
――ID関連製品でも、日本は独自規格が強く、海外と異なったトレンドにあります。今後の見通しは、いかがですか。
原島氏 日本で、どの規格が普及するかは分からない。ただ、NFCは、自動車やスマートフォンといった世界展開される製品に搭載されることで、その利用が拡大する方向にあると思う。従って、グローバルスタンダードなものが、日本国内で利用が増えるようになると考えている。競合の参入は続いているが、ID分野では、われわれの実績は突出している。この実績をベースに、グローバルスタンダードを取り入れつつある日本市場で、NXPのID製品への引き合いは増加している。2015年の売り上げ倍増を達成する上で、ID製品の売り上げ拡大に期待する部分は大きい。
――2015年の売り上げ倍増時には、製品別の売上比率は大きく変わりますか。
原島氏 個人的なイメージだが、汎用製品、ID製品の売上高比率は、相対的に高まるだろう。その結果、車載向けは市場の伸びより高い成長を続けながらも、売り上げ比率は下がることになるだろう。車載向け売上高が現行の6割強から5割程度になるぐらい、車載向け以外で売り上げを伸ばせればと考えている。
原島 弘明(はらしま ひろあき)氏
1985年にNECに入社し、国内の大手メーカー各社を顧客として、半導体や各種エレクトロニクス製品の営業活動に尽力。2002年以降、NECエレクトロニクスで事業部の統括やマネジメント職に従事。2010年からはルネサスエレクトロニクス販売で執行役員、統括部長の要職を歴任。2012年11月から現職。
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