大手FPGAベンダーのアルテラは、2013年後半から2014年にかけ、さまざまな新製品投入を予定する。14nmという最先端プロセス採用品から55nmフラッシュメモリ内蔵の低コストファミリ、さらには電源ICをも手掛ける。取り扱い製品が多様化しつつある中、2013年7月に日本アルテラの社長に就任したハンス・チュアン氏は、「全ての製品にアルテラ製品を搭載する」という。チュアン氏に日本法人社長としての抱負や事業戦略を聞いた。
大手FPGAベンダーのアルテラは、2013年後半から2014年にかけ、さまざまな新製品投入を予定する。14nmという最先端プロセス採用品や55nmフラッシュメモリ内蔵の低コストファミリのテストチップを2013年末から順次出荷する予定(関連記事:Intelの14nmプロセス技術を用いた「Stratix 10」を発表、年内にテストチップ出荷)。さらにはこのほど電源ICメーカー「Enpirion」を買収し、同IC分野にも参入した(関連記事:アルテラが電源IC事業に参入、自社FPGAに最適な電源ICを開発/販売へ)。
事業領域を広げるアルテラにあって、2013年7月1日付で日本法人・日本アルテラの代表取締役社長に、ハンス・チュアン氏が就任した。チュアン氏は、学生時代に日本の大手電機メーカーでの研修を皮切りに「技術力のある日本で働きたい」との思いから1998年に日本アルテラにFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)として入社し、FAEディレクターなどを歴任しがら2007年まで日本市場で活躍。その後、米国本社や中国法人での勤務を経て、今回の社長就任に当たり、約6年ぶりに日本アルテラに復帰した。
成長著しいアジアなどで経験を積んだチュアン氏は、「これから日本は回復する時期であり、良い時期に日本アルテラの社長就任が決まった」とし、日本でのビジネスに期待を膨らませる。「全ての機器にアルテラ製品を搭載することが目標」というチュアン氏に、日本アルテラ社長としての抱負や事業戦略を聞いた。
EE Times Japan(以下、EETJ) 日本アルテラでの勤務は、6年ぶりですが、印象はいかがですか。
チュアン氏 オフィスも同じで、半数以上のスタッフも以前に勤務していた時からの仲間であり、あまり変わっていない印象だ。日本自体も超高層ビルが増えたり、アラウンドビューやミリ波レーダーといったADAS(先進運転支援システム)を装備した車が走っていたりで驚いた。やはり、日本は、技術力のある国だと再認識した。
EETJ 成長著しい大中華圏の営業を統括されている中で、経済が低迷する日本市場を担当する日本アルテラの社長就任に抵抗はありませんでしたか。
チュアン氏 全く抵抗はなかった。むしろ日本は、これから経済的に回復していこうとする段階であり、良い時期に社長就任が決まったと思っている。実際に社長に就任しても、6年前はFPGAに全く興味を示されなかった顧客が、今は大きな関心を抱いているというケースは多く、確実にビジネス機会は広がっていると感じている。
EETJ 就任にあたって、日本アルテラ社長としての目標を教えてください。
チュアン氏 ひと言で言えば、「全ての機器にアルテラ製品を搭載する」になる。FPGA、プログラマブルデバイスの認知は高まり、新しい市場、アプリケーションで利用されるようになった。アルテラとしても、ハイエンドの製品から、低価格なASICやマイコンを置き換えられる製品まで幅広い製品構成が整いつつあり、あらゆる機器に提案ができるようになった。不可能にも思えるような目標かもしれないが、そのために必要な道具、土台はそろっており、いつか必ず達成できる現実的な目標だと考えている。
EETJ 新しい市場、アプリケーションとして注目されているところは、どのようなものですか。
チュアン氏 これは、アルテラ全社にいえることだが、自動車、産業機器の市場を新市場と捉え、強化している。この2市場向け事業を強めるため、体制も改変し、担当するビジネスユニットを作った。日本法人でも2012年から、自動車や産業機器市場の専任チームを作り、この分野に精通するスペシャリストも増員してきた。さらに、品質が重視される分野でもあるため、品質管理(QA)のチームも新設するなどの対応を行ってきた。その成果もあって、自動車であれば、実績のあるインフォテインメント系に加え、ADASに代表される安全/車体制御系への納入なども決定している。全社レベルで今後品質をさらに高め、エンジン制御系など車のあらゆる部分への製品展開を目指していく。
EETJ 製品展開では、ハイエンド製品として年内にも14nmプロセス採用した「Stratix 10」のテストチップ出荷されます。
チュアン氏 FPGAは常に最先端の製造プロセスを導入する必要があり、最先端技術であるインテルの14nmプロセスでの製造される「Stratix 10」には、通信機器メーカーなどから大きな期待がある。
EETJ これまでアルテラは、長くTSMCへの製造委託を続けてきた中でのインテルへの委託になりますが、不安要素などはありませんか。
チュアン氏 まず、断っておきたいのだが、TSMCとは今後も製造委託を行いパートナーの関係をこれまで通り深めていく。「Stratix 10」とほぼ同時期にTSMCの20nmプロセスを使って「Arria 10」の生産を開始する。TSMCとは長い付き合いがあり、これはアルテラの強みの1つだ。長期安定供給が不可欠な自動車、産業機器市場に対しても、15〜20年という期間で製品供給できる関係がある。
その中で、14nmプロセスでの委託先が、インテルとなったのは、単純にインテルが優れた技術を持つからだ。インテルにとって、(立体ゲート構造である)トライゲート構造トランジスタの製造は、22nmプロセスに続き、14nmプロセスで2世代目となる。他は、これから初めてトライゲート構造を導入する段階であり、そういった面でも完成度の高い製品が提供できるとの意味合いなどから、インテルへの委託を行う。
EETJ 新製品では、55nm エンベデッドフラッシュメモリ技術(EmbFlash技術)を用いた製品を投入される計画です。
チュアン氏 ASICのビジネスが難しくなってきている中で、55nm EmbFlash技術を使った低コストファミリは、ローエンドASICに対し価格面でも対抗できるようになるだろう。ハイエンド、ローエンドともに、(ASICに対し)市場で有利な立場になる。さらに、マイコンからの置き換えも可能だろう。
EETJ 目標とされる「全ての機器にアルテラ製品を搭載する」を実現するために、これから日本法人で実施されることは、何になりますか。
チュアン氏 大きく3つの戦略がある。まず、第1に既存顧客でのシェアアップを狙うこと。今後、展開する最先端製品などでシェアを上げていく。
2番目は、自動車、産業機器などの新しい市場/アプリケーションへの参入だ。製品力に加え、パートナー企業と連携したソリューション提案などで、取り込みを図る。
もう1つが、コモディティ製品の幅広い拡販だ。55nm EmbFlash技術による低コストファミリの他、このほど買収したEnpirionの電源ICなど、全ての機器に使用できる製品が増えており、新しい提案が行える体制がある。
EETJ 日本法人の営業戦略の見直しなどはされますか。
チュアン氏 これまでの顧客重視の営業戦略を継続する。当社は、豊富な営業リソースを持ち、顧客に対し直接的な営業活動ができている。販売代理店についても、国内はアルティマの1社体制とし、強いパートナーシップが結べている。全ての情報を共有し、より一体感のあるサポートが提供できている。
ただ、これからは、さらにもっと新しいことに挑戦して行きたいと考えている。市場、顧客、取り扱い製品が変化する中では、チャンスも多いはず。全ての挑戦がうまくいくとは限らないが、これまで通りではなく新しいやり方、違うやり方を実践するなど、とにかく新しいことをするようにしていこうと日本法人の社員には呼びかけている。
ハンス・チュアン氏
1998年に日本アルテラ入社後、FAEとして日本市場で活躍。その後、米国本社などでアジア太平洋地域のFAE部門、セールス部門のディレクターを歴任し、2012年からは中国法人で中国戦略顧客担当シニア・ディレクターに就任し、大中華圏(中国及び台湾)におけるセールス部門を統括してきた。そして、2013年7月に社長として約6年ぶりに日本アルテラに復帰した。
台湾出身で、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学電気工学学士号(BSEE)、およびマギル大学経営学修士号(MBA)を取得。39歳。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.