物質・材料研究機構(以下、NIMS)や岡山大学らの研究チームは、室温の大気中で印刷プロセスを用い、有機薄膜トランジスタ(TFT:Thin-Film Transistor)を形成することに成功したと発表した。フレキシブル基板上に有機TFTを形成したところ、従来の有機TFTに比べて高い移動度を達成した。今回の研究成果を用いると、大面積の紙や布、さらには人間の皮膚など生体材料の表面にも、半導体素子を形成できる可能性を示した。
物質・材料研究機構(以下、NIMS)や岡山大学らの研究チームは2014年5月、大気・室温の環境下で印刷プロセスを用い、有機薄膜トランジスタ(TFT:Thin-Film Transistor)を形成することに成功したと発表した。フレキシブル基板上に形成した有機TFTにおいて、平均移動度は7.9cm2V−1s−1を達成した。今回の研究成果は、大面積の紙や布、さらには人間の皮膚など生体材料の表面にも、半導体素子を形成できる可能性を示した。
本研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、岡山大学の異分野融合先端研究コア助教およびコロイダル・インク社長を務める金原正幸博士による研究チームが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)若手研究グラント事業の支援を受けて行った。プリンテッドエレクトロニクスは、インク化した金属や半導体材料を、印刷プロセスで基板上にパターンニングして、半導体素子や回路を形成する技術である。しかし、これまでは100〜200℃と高温での処理や真空雰囲気での処理を必要としていたため、基板として用いる材料やその応用などに制限があった。
今回の研究チームは、電極として用いる金属ナノ粒子の配位子として、導電性のある芳香族性の分子を使った。この金属ナノインクを用いることで、塗布後に高温焼成しなくても金属皮膜を形成することが可能となった。この薄膜を測定したところ、抵抗率は9×10−6Ωcmを達成した。開発した室温導電性インクを用いて、プラスチック基板および紙基板上に、印刷プロセスで有機TFTを作成した。有機TFTの動作特性にも優れており、それぞれ平均移動度は、7.9および2.5cm2V−1s−1を達成した。しかも、半導体素子を作成する工程では1℃も上昇しなかったという。
また、印刷プロセスで微細な電極を形成する技術も確立した。それは表面に微細な親水、疎水領域を形成し、親水領域のみにインクを塗布する選択的成膜技術である。金属ナノインクは親水領域のみに塗布・成膜されるため、真空紫外光(VUV)を照射した形状で電極が形成されることになる。今回試作した有機TFTの形成には、ウシオ電機製のエキシマ光照射ユニット(波長172nm)を用いた。同研究では線幅が約10μmの配線を形成することが可能であることを確認している。
今回の研究成果は、半導体素を作成するための印刷プロセスが室温環境で行え、加熱も必要ないことである。同研究チームでは、プラスチック基板と紙基板に、それぞれ数百個〜500個の有機TFT素子を作成して動作の確認や特性を評価した。
なお、今回の研究成果は、最新の「Advanced Functional Materials」誌に掲載される予定である。
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