紛争現場などでの人道支援に無人航空機(ドローン)を活用するプロジェクトが進んでいる。内戦状態が続くシリアの都市に、トルコから食料や医薬品を、ドローンを使って運び、空中投下することを目指す。
Mark Jacobsen氏は、無人航空機(ドローン)を使って、包囲攻撃下にあるシリアの都市に食品や医薬品を届けるプロジェクト「Syria Airlift Project(シリア空輸プロジェクト)」に取り組んでいる。しかし、同プロジェクトは現在、技術や法律、経済といった面でさまざまな問題に直面しているという。
Jacobsen氏は、米国カリフォルニア州サンノゼで3月23〜25日に開催された「Embedded Linux Conference(ELC)」において、開発者向けに行われた記者会見の中で、「物資の輸送実現をサポートできるような実例を用意できたと言いたいところだが、今はまだ模索しているさなかだ」と述べている。
同氏は、オープンソースソフトウェアプロジェクトをいくつか立ち上げようと考えている。例えば、ドローンからの荷物の空中投下を制御したり、ドローンと地上のコントローラとの間で安全な応答確認を実現することなどを目指すという。同氏が現在使っているドローンは、3D Roboticsのオートパイロット向けシステムのモジュールと、オープンソースコードを使用している。
Jacobsen氏は、「プロジェクトの中でコーディング技術を持っているのは私1人だけだが、別の業務を担当しなければならなくなった」という。同氏は、かつて軍のパイロットとして中東で勤務した経歴を持ち、アラビア語が堪能だ。現在は、米スタンフォード大学(Stanford University)の政治学部の博士課程に在籍している。
同氏は、現在使っているドローン「X-UAV Talon」を、「Waliid」と名付けている。このWaliidという名前は、シリア難民を助けるために命懸けで取り組んだトルコ人医師にちなんで付けたという。今回のプロジェクトでは、ドローンの軽量化と積載量の増加を目指す。最終的には、価格が1000米ドル未満で、最大積載量2kgのドローンを、トルコとの国境を越えてシリアのアレッポ(Aleppo)などの都市まで50km飛ばせるようにしたい考えだ。
Jacobsen氏は既に、オートパイロットモジュール向けに自動自爆装置を開発している。このため、もしドローンが捕獲されたとしても、再利用される心配はない。小型ドローンは、従来型の飛行機とは異なり、レーダーシステムで捉えられることはまずないが、それでも小型武器による射撃で撃墜される可能性はある。
プロジェクトグループはこれまで、シリア国内で模擬飛行訓練を行ってきたが、間もなく米国カリフォルニア州サクラメントでテスト飛行を実施する予定だ。自動飛行プロファイルを作成することにより、トルコ国内のシリア難民から募ったボランティアたちが、簡単なチェックリストを使って操作できるようにしていきたい考えだという。
Jacobsen氏は、「3人構成のクルーで、1時間当たり最大12回のフライトが可能だ。一晩で、医療用品や食品などを400ポンド(約180kg)以上運ぶことができるとみている」と述べる。また同氏は、2015年夏に試験的なプログラムをトルコで開始するために、5万米ドルの資金を調達したいと考えている。
Jacobsen氏は、「このプログラムは、シリアの領空主権を侵害する可能性があるが、人道的活動による法的前例がある」と述べる。また、米ハーバード大学法学大学院(Harvard law School)が、無償でサポートを提供する予定だ。そのボランティアの中には、米国アラバマ州やドイツなどに住むシリア人エンジニアたちも含まれているという。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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