メモリセルを構成する材料やその組成は、公表していない。IEDM 2009の論文には、材料がカルコゲナイドであるとの記述すらない。材料でふれているのは、メモリセルアレイを接続する行配線(ロウ配線)と列配線(カラム配線)が銅配線であることくらいだ。メモリセルアレイの下部に存在するCMOSロジックは通常のバルクCMOSプロセスで、設計ルールは90nmである。
ただし、PCM技術についてはIntelとOvonyx社が共同で2001年のIEDM(IEDM 2001、論文番号34.5)にて発表済みである。この論文では、PCMがカルコゲナイド材料であること、材料はゲルマニウム(Ge)とアンチモン(Sb)とテルル(Te)の化合物(GeSbTe)であることが明記されている(組成比は公表していない)。3D XpointメモリのPCMも、GeSbTe化合物である可能性が高い。PCMとしては標準的な化合物であり、Intel以外にも数多くの企業や研究機関、大学などが研究してきた材料系でもある。
OTSは少々厄介だ。IEDM 2009の論文では、Obshinsky氏が1968年に発表した著名な学会論文(Physical Review Letters誌1968年11月11日号)を引用している。カルコゲナイド材料であり、PCMとは異なる材料組成であることは推測できるものの、具体的な元素名や組成などは不明である。
それでも、参考になる研究成果を、2012年のIEDMでSamsung Institute of Technologyが発表している(論文番号2.6)。抵抗変化メモリ(ReRAM)とスイッチでクロスポイント型のメモリセルを試作した研究成果である。スイッチにはカルコゲナイド材料を採用しており、その動作を見る限りは、OTSの一種だとみられる。スイッチの材料は、ヒ素(As)とGe、Te、シリコン(Si)、窒素(N)の化合物(AsGeTeSiN)である。相変化メモリの標準的な化合物ともいえるGeSbTeとは、明らかに違う。
なおカルコゲナイドとはカルコゲン元素(第16族元素)と、カルコゲン元素よりも電気陰性度の低い元素を組み合わせた化合物を指す。カルコゲナイドを形成する代表的なカルコゲン元素は、硫黄(S)とSe、Teである。
留意しておくべきなのは、電極材料の選択が極めて重要なことだ。銅配線とOTSを接続する上部電極、OTSとPCMを接続する中間電極、PCMと銅配線を接続する下部電極のいずれも、異なる材料系である可能性が高い。さらには電極は1層であるとは限らない。2層〜3層の可能性は十分にある。
乱暴に言ってしまうと、カルコゲナイド材料の選択と調整よりも、電極材料の選択と調整の方が難しいと予想できる。Blalock氏の講演を紹介した記事に「約100種類の新材料を使用する」とあるが、原文を読むと「100」の数字に定量的な意味はなく、「数多くの新材料を使う」という意味の英語的表現(特に口語の場合)だと理解できる。100種類とまではいかなくても、電極材料の複雑さからは、確実に数十種類の新材料を試さなければならないだろう。当然ながら新しい材料の原料は当初は純度が低く、汚染の原因となる不純物が許容不可能な比率で混入する恐れが高い。原料の純度の問題は3D Xpointに限らず、新しい元素を半導体デバイスに採用するときには共通の課題でもある。
話題を再び、IEDM 2009でIntelとNumonyxが共同発表した64Mbitのクロスポイント不揮発性メモリに戻そう。試作したメモリのスイッチング時間は、最短で9ns(リセット動作の場合)。かなり高速なメモリを作れそうだ。3D Xpointメモリを2015年7月に発表したときのうたい文句「NAND型フラッシュメモリに比べて1000倍もアクセスが速く」を書き込み時間と考えると、うそではなさそうなことが分かる。
また読み書きのサイクル寿命は、100万回に達した。100万回の寿命は、NANDフラッシュの寿命を1万回とすると、100倍に相当する。3D Xpointメモリを2015年7月に発表したときのうたい文句「NANDフラッシュの1000倍の書き換え寿命」にはやや足りない気もするが、その後の改良期間を考慮すると、1000万回の寿命を試作レベルで達成できている可能性は少なくない。
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