今回は、介護に関する「働き方改革」の問題点に迫ります。本稿をお読みいただき、政府が声高にうたう「働き方改革」が現実に即しているかどうかを、ぜひ皆さまなりに考えてみてください。
「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」として政府が進めようとしている「働き方改革」。しかし、第一線で働く現役世代にとっては、違和感や矛盾、意見が山ほどあるテーマではないでしょうか。今回は、なかなか本音では語りにくいこのテーマを、いつものごとく、計算とシミュレーションを使い倒して検証します。⇒連載バックナンバーはこちらから
このシリーズ「働き方改革」では、「働き方実行計画」の内容に基づき、この計画の骨格を、11項目にまとめて連載を続けています。
しかし、項目「8.子育て、介護、障害者就労」は、"介護"だけで既に2回を費やし*)、さらに今回が3回目(項目8の最終回)となります。
*)1回目:「高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか」、2回目:「介護サービス市場を正しく理解するための“悪魔の計算”
なぜ、私がこの"介護"問題に執着しているのか ―― それは、私が(そしてあなたも)、100%この問題から逃げることができないからです。そして、私は、もうすぐやってくるこの問題が、死ぬほど怖いのです。
私の母は今でも、胃ろう(胃に穴を開けて、直接栄養を送り込む器具)で、施設での寝たきりの生活を続けており、私の父は数年前にアルツハイマーによる認知症と認定された後、ことし(2018年)7月に他界しました。
職人かたぎだった父は、認知症後に幾つかの事件 ―― 私の人生で最大級の恐怖を思い知らせた事件*) ―― を起こしましたが、基本的には、ヘルパーさんやデイケアの助けを受けながら、毎日を黙したまま、何も語らず、何の感情も見せず、テレビの方を向いて、ただボンヤリと生きていた――、そんな風に見えました。
*)この事件の顛末(てんまつ)は、いずれEE Times Japanで掲載する予定です。
私は今でも、『父が何を考えていたのか』『寂しくはなかったのか』『辛くはなかったのか』『何か私にして欲しいこと、伝えたいことがあったのではないか』――。そんなことばかりを考えています(筆者ブログ)。
晩年の父を語るのであれば、外部から確認できず、内部から何も出てこない『ブラックボックス』、これ以上ふさわしい言葉はないと思います。
人間が必ず死に至るように、認知症は、発症前に死亡しないかぎり、基本的に誰にでも発症します。そして前々回のコラムで述べたように、私たちは1945年以降、「簡単には殺してもらえない世界」を生きているからです。
私は今回、この認知症という『ブラックボックス』の中身 ―― 認知症となった人の内面 ―― を知りたくて、相当な時間をかけて文献調査を行いましたが、その成果は絶無でした。
考えてみれば、これは当然です。認知症となった人は、その内面を第三者に伝えることができないのですから。そして、この私も(そして、あなたも)、これから、ほぼ100%の確率で『ブラックボックス』になっていくのです。
「働き方実行計画」の話に戻りましょう。
私は、ここ3カ月間、"介護"ついてずっと調べているのですが、妙な違和感を覚えていました。その違和感が何なのか、今回、ようやく気が付きました。"介護"が、かならず"子育て"または"育児"とセットになって記載されているのです(実際に調べてみてください)。
もっと分かりやすく言うと、『"被介護者"が、"幼児"と同じ取り扱いをされている』のです。
"被介護者"は、「働き方改革」を取り組む側(主体)としては見なされておらず、"幼児"と同様の単なる保護対象であり、もっと悪いことに、"幼児"とは違って、"被介護者"は資産価値がなく、投資効果もない、不良債権として位置付けられているようにも見えます。
私たちは"幼児"として産まれてくることを回避できませんし、”死”を回避することもできません。しかし、将来、"被介護者"にならないようにする、あるいは、その期間を短くすることからは、逃げることができるかもしれません。
ならば、「働き方改革」が最優先に掲げるべき「働き方」とは、「"被介護者"にならない働き方」または、「"被介護者"となる期間を最短にする働き方」ではないのか、と思えるのです。
これは、政府ですら定義できていない、ナゾの「生産性」なるもの*)を追い求めるよりも、その有効性は明らかです。
*)「誰も知らない「生産性向上」の正体 〜“人間抜き”でも経済は成長?」
なぜ、政府は「それ」を言わないのか ―― と、私なりに調べていくうちに、『「それ」を言うためには、どうしても言わなければならない"前提"があって、その"前提"は、政府には口が割けても言えないから』ということが分かってきました。
しかし私は、今回もそういう話を致します。いつものことですが、このコラムを読んで頂いているあなたを、不快にさせる自信があります ―― 100%です。
不愉快な気分を避けたい人は、このページで本コラムを読むのを中断してください(読み終えた後のクレームは、お控えください)。
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