「MCS-48」ファミリーをIntelが発表したのは、1976年12月のことである。用途別に、3種類のマイクロコントローラーを最初に提供した。これら3つの製品はパッケージに互換性がある。すなわちプリント基板の配線レイアウトを変更することなく、3つの製品を切り替えられる。
ここで用途別とは、開発・試作用、量産用、大規模プログラム用の3つを意味する。開発・試作用のマイクロコントローラー「8748」は、紫外線消去型EPROM(UV-EPROM)とRAMを内蔵する。記憶容量はそれぞれ、1Kバイトと64バイトである。ユーザーはソフトウェア(プログラム)を開発する段階で、完成したプログラムを「8748」のEPROMに書き込み、動作を検証する。
動作検証が完了したソフトウェアは、システムの量産段階ではマスクROMに書き込む。このために用意されたのがマスクROMとRAMを内蔵する量産用マイクロコントローラー「8048」である。「8048」が内蔵するROMとRAMの記憶容量はそれぞれ1Kバイトと64バイトで、開発・試作用の「8748」と等しい。このため、「8748」から「8048」へと円滑に移行できる。
3番目の製品である大規模プログラム用マイクロコントローラー「8035」は、ROMを内蔵しない。内蔵するメモリは64バイトのRAMだけである。プログラムの格納に必要なROMの容量が1Kバイトを超える場合は、この「8035」を使って所望の記憶容量を備えたEPROMあるいはマスクROMを外付けする。
これら3種類のマイクロコントローラー製品は、1970年代から1980年代のマイコンファミリーで標準的に用意される、基本セットとなった。技術的には、紫外線消去型EPROM(UV-EPROM)とマイクロプロセッサ(CPU)を同じシリコンダイに作り込めるようになったことが、重要だ。紫外線消去型EPROM(UV-EPROM)はかなり難しい技術で、製造歩留まりに懸念がある。マスクROMは内蔵しても、UV-EPROMは外付けにしておくのがそれまでの安全策だった。
ここであえてUV-EPROMを内蔵させることにより、同一のプリント基板でUV-EPROM内蔵品とマスクROM内蔵品を差し換えられるようになった。このことはシステム開発に大きな利便性をもたらした。マスクROM内蔵品は、プログラムのコードをユーザーが半導体メーカー(ここではIntel)に納入してから、完成までに数カ月は待たなければならない。何らかの理由でシステムの納期が差し迫っている場合、マスクROM品の完成を待たずとも、UV-EPROM品をプリント基板に実装すればシステムを製品としてユーザーは最終顧客に納品できる。
ただしUV-EPROM内蔵品の単価は、マスクROM内蔵品に比べるとはるかに高い。あくまでも急場しのぎだ。それでも、急場しのぎの手段があるというのは、システム開発にとって大切なことだ。「MCS-48」ファミリーは上記のような意味で、画期的な製品だと言えよう。
(次回に続く)
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