半導体メーカーは当面の間、半導体不足によって値上げのチャンスを得ることができた。
Simpson氏は、「これは、一部のファウンドリーにとっては未知の領域だといえる。ファウンドリーの中には、戦略的な顧客企業にプレミアム価格で提供するという長期契約を確保する動向も広く見られる。小規模な半導体メーカーは、重大なインフレの問題に直面するだろう。TSMCは、最も強力な交渉力を持つ位置付けにあるが、特に最先端技術の分野において価格を吊り上げることに関しては、あまり積極的ではない」と述べている。
業界アナリストたちは、一部の最後発プロセスの分野で、ウエハーの価格が前年比で20%上昇すると予測している。例えば28nmでは、ウエハー1枚当たりの価格は2500米ドルを上回る。8インチウエハーの見積もり価格は1枚約600米ドルと高額で、2022年も高止まりが続くと予測されている。
Bryson氏は、「半導体メーカーは、半導体不足によって提供されたテコ入れ資金を利用して、成熟部品や主流部品の有利な価格を維持しようとしている。価格の高止まりは2022年まで続くだろう」と述べている。
Hutcheson氏は、「ウエハー1枚当たりの高い価値を確保することによって得られた価格決定力と、短期的に価格を吊り上げるチャンスによって得られた価格決定力との間には、違いがある。一部のファウンドリーは、小規模な顧客企業向けの価格を吊り上げている」と指摘する。
「もし私が8インチウエハーを10万枚購入しようとしても、5000枚購入しようとしても、膨大なプレミアムを支払うことになる。だが私がAppleであれば、交渉した価格で購入できるだろう。“世界のApple”は、長期的なウエハー価格で交渉している。供給過剰になれば、通常は価格を再交渉することとなり、価格は下がる。上がることはまずない」(同氏)
Bryson氏は、8インチウエハーの供給を増やすことは、製造装置の調達が困難なことから、より難しいと考えている。同氏は、7nmチップを製造する工場からの供給が伸びるであろうことも予測している。
Hutcheson氏は、自動車メーカーは、チップの在庫管理を「ジャストインタイム(just-in-time)」から「ジャストインケース(just-in-case)」に変更する必要があると述べる。「自動車業界は1日単位の在庫を考えているが、ことし(2021年)の稼働率を96〜98%と仮定すると、ウエハーの処理には3〜4カ月かかる」(同氏)
「クルマを作るにしろ、ミサイルや戦闘機、航空機を作るにしろ、1個でもチップが欠けていたら完成できない」とHutcheson氏は続ける。チップ不足のために生産を停止した自動車メーカーは、ICの在庫を少なくして節約した分だけ、自動車販売の損失が増えることを理解している。
自動車業界以外では、チップ不足は「解消されつつある」とHutcheson氏は述べる。2021年には、「不足」から「ひっ迫した状態」へと移行した。ただし、自動車についてはまだ不足している。
「しかし、他の分野は全てバランスがとれている。DRAM、NAND型フラッシュメモリ、ロジック、アナログ、パワーデバイスを見ると、いずれもひっ迫しているか、まだバランスが取れているかのどちらかである。ただし、一時期よりはだいぶ緩和が進んでいる」(同氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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