今回量産を開始したのは、第2世代E-Axleの第1弾となる100kW品。第2弾として150kW品を準備していて、こちらは2023年5月にも量産を開始する予定だ。「この2つが大きなけん引力となって収益を劇的に変えていく」と早船氏は述べる。「収益性が低い第1世代品に対し、第2世代品ではコストが約35%下がっており、高い利益をもたらしている」(同氏)。昨今の市況により、コストを顧客に転嫁できるようになったことも要因の一つとして挙げた。さらに、「中国での現地化を含め、VA(Value Analysis)とVE(Value Engineering)を見直すことで大幅なコストダウンを達成できている。2022年第3および第4四半期には、(収益性の低い)第1世代品でさえ、収益が得られるようになってきている」と続けた。
EVトラクションモーター事業の黒字化に時間がかかった理由について早船氏は「第1世代品の受注が増え、収益性が悪化してしまったこと。2030年前後に投入予定の第4世代品の開発も並行して行っており、そのため、膨大な開発費がかかっていること」だと説明している。
さらに、日本電産の会長でCEO(最高経営責任者)を務める永守重信氏が以前から繰り返し主張してきた「EV普及の分水嶺となる2025年」に向け、E-Axleの生産能力も大幅に増強している。
E-Axleの生産台数について早船氏は「2021年度が23万台、2022年度が55万台、2023年が約120万台を想定している」とした。「この10月は月産約5万台、12月は約7万台、(2023年)1〜3月は、7万〜8万台を生産できればと考えている。通常と全く違うスピードでの増産投資を行っている」(同氏)
早船氏は、第3世代E-Axleに対する顧客からの要求は、コスト、効率、NV(Noise Vibration=静かであること)の3つだが、中国と欧州では要求がやや異なると述べる。欧州では、800V系システムの導入など、充電時間を短くするために高電圧への対応が要求される一方、中国では「ウクライナ情勢などの影響でバッテリーの価格がすさまじく高騰している」(同氏)ことから、効率の向上が強烈に求められているという。さらに、四輪駆動に対応すべく、マグネットを使用しないインダクションモーターを使用したいという要求もあるとする。
精密小型モーターについては、事業ポートフォリオの転換を図る。具体的には、電動化が進む2輪車や小型化向けの開発を進めている。ここでは、主に中国、インドをターゲットとする。特にインドでは、第2工場の建設を開始していて、完成すれば工場の延床面積が既存の2倍に拡張される。
家電/商業/産業用では、特にエネルギー分野に向け、ノルウェーの半固体リチウムイオン電池メーカーFREYR BATTERYと合弁契約を締結したことにも触れた。BESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)でのビジネスが増えてきており、同分野に力を入れているとした。
日本電産では、2022年4月21日には永守氏がCEOに復帰し、それから半年もたたない同年9月2日には、社長兼COO(最高執行責任者)だった関潤氏が辞任、新社長に創業メンバーの1人である小部博志副会長が暫定的に就任するなど、経営陣の交代劇が続いている。決算説明会の質疑応答では、永守氏がこの2年半を振り返り「地獄のようだった」と心境を吐露する場面もあった。
「OEMメーカーとは違い、部品メーカーは顧客が第一。(退任した関氏に)もっと顧客を回ってほしい、工場にも行ってほしいと伝えたが、そうしてはくれなかった。つらい2年半だったが、いい経験もしたと思っている。自分が自信を持って育成してきた社員が、考え方をしっかり持って仕事をしてくれている」(同氏)
さらに、後継者問題(後継者探し)については「10年遅れた」と言及。「(後継者を)外部に求めたのは、会社を経営してきた50年間で最大のミスだった。今後は内部の人材を中心に経営を行っている。既報の通り、2023年4月には新しい経営体制を敷く。既に人材も決めている」と続けた。
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