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Intelとメモリメーカーは生き残れるのか? 〜驚愕のMPU/メモリ市況湯之上隆のナノフォーカス(60)(5/5 ページ)

» 2023年03月29日 11時30分 公開
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SamsungとSK hynixは中国から撤退する?

 DRAMもNANDも、メモリメーカーは、2年で1世代、先端に進むことによって、競争力を維持している。そのため、メモリメーカーに「投資するな」というのは、「死ね」というに等しいことになる。米国政府は1年間の猶予を与えたが、本質的な解決策にはならない注)

注)米国の商務省は2023年3月21日に、補助金を受け取る企業について10年間中国などへの投資を禁じる「ガードレール」の詳細を発表した。その結果から、韓国のメモリメーカーは10年間で、先端で5%、旧式プロセスで10%以下なら投資できることになった。従って「10年間一切投資禁止」からは少し緩和されたが、事態は深刻であることに変わりがない。例えば、Samsungの西安工場の総投資額は約270億米ドルなので、今後10年間に投資できるのは、先端に13.5億米ドル、旧式に27億米ドルが上限である。1年当たりでは、先端に1.35億米ドル(175億円)、旧式に2.7億米ドル(350億円)の計算になる。しかしこれでは、先端のプロセスは開発できず、工場の稼働を維持するだけで精一杯であろう。つまり、「生かさず殺さず」の規制緩和であり、韓国のメモリ工場は「ガラクタ工場」になり下がると思われる。


 Samsungの西安工場とSK hynixの無錫工場は、中国に巨大な市場があり、中国政府から優遇措置を受けることにより、中国に進出した経緯がある。そのため、中国政府が韓国メーカーの撤退を許さないかもしれないという事情は、あるだろう。

 しかし、今後レガシーなメモリしか生産できず、まるで利益を生まなくなる工場を、SamsungとSK hynixが維持してくことも合理的ではなく、考えにくい。やはり、中国政府の制止を振り切って、中国から撤退することになるのではないか?

 そして、その撤退には大きなコストが掛かる。従って、業績が悪化しているSamsungとSK hynixにとっては、相当シビアな事態になることが予想される。

半導体メーカーの統廃合が起きる?

 ここまで、PC市場の急減速、PCに使われるMPU、DRAM、NAND市況の目を覆うばかりの酷さ、そして、Intel、Samsung、SK hynixの業績の悪化、加えて、米CHIPS法における『ガードレール』がSamsungとSK hynixの業績悪化に追い打ちをかけることを説明してきた。

 半導体の歴史を振り返ると、大不況の時に、半導体メーカーの統廃合が起きていることが分かる。2001年のITバブル崩壊の時に、日本はエルピーダメモリ1社を残してDRAM事業から撤退した。2008年に起きたリーマンショック後には、2009年にドイツのDRAMメーカーのQimondaが破産した。後を追うように2012年にエルピーダも経営破綻して、2013年に米Micron Technologyに買収された。

 今回のコロナ特需の終えんによる大不況は、過去最悪レベルになる可能性がある。そのため、業績が悪化したIntelやメモリメーカーなどを中心に、統廃合が起きる可能性が高い。半導体関連企業には、それに備えた覚悟が必要になるだろう。

 次回のWBCは3年後の2026年に開催されるという。そのときに、世界の半導体業界がどのようになっているのだろうか? 筆者にはまったく想像がつかない。再び(無事に)、大谷翔平劇場を見ることができることを、切に願っております。

連載「湯之上隆のナノフォーカス」バックナンバー

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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