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「日本のコロナ史」を総括する 〜5類移行後の答え合わせ世界を「数字」で回してみよう(70)番外編(8/11 ページ)

» 2023年11月21日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

ワクチンを打たない/打てない人に、伝えるべきことを伝えられていたか

 ワクチン非接種者の論調のうち、陰謀論に基づく物については水掛け論になりがちです。根源的な不安に基づく場合には寄り添いが必要です。また、一長一短があるので、個人の価値観や置かれた状況によって、同じ情報を得ても結論が変わります。

 私のスタンスとしては、正負それぞれの知見を列挙し、読者の中でセルフディベートを行えるだけの情報が得られるようにコラムを構成してきたつもりですが、いかがだったでしょうか?

 本項目においては、追加の知見をいくつか提示することで総括に代えたいと思います。

 まずはワクチン接種推進の論拠となる論文から。ワクチンの有効性を示す報告は山ほど有りますが、この報告は、OECD(経済協力開発機構)加盟国中20カ国のワクチン接種率とCOVID-19死亡率、超過全死亡率の調査報告です。各国のワクチン接種率、デルタ株流行期/オミクロン株流行期/全期間の人口10万人当たりのCOVID-19死亡者数は以下の通りでした。

 この報告では特に、アメリカという同じ国内にもかかわらずワクチン接種率下位10州と上位10州に大差がついた点を考察していました。もしも米国全体が、ワクチン接種率上位10州と同じ接種率を実現できていれば、26万6,700人の死亡を回避できた、と筆者らは推計しています(ワクチンだけで無く、人種差、医療インフラ、医療保険制度、経済弱者の医療アクセスなども死亡率に影響しただろうとも推測しています)。

ワクチン接種後の死亡報告の実数は、どうだったのか

 総括ですので、ワクチンにマイナスのイメージとなる情報も出し惜しみしません。

 ワクチン接種後の死亡報告の実数を示します。スパイクバックス(モデルナ)で224件(令和3年5月22日〜令和5年4月30日)、コミナティ(ファイザー)で1831件(令和3年2月17日〜令和5年4月30日)の死亡が報告されています。

[江端コメント]: 上記のフレーズだけを切り取ってSNSに流す輩がいると思いますので、一応警告しておきます。『(1)そのような行為は、著作権法第32条(引用)の濫用とみなし、私(江端)は、法的措置をためらいません』『(2)ただし、この江端コメントを含めた、以下の6つのフレーズの全てを含める場合に限り、私(江端)は、”引用の濫用”とはみなしません』

 一見ファイザーの方が多く見えますが、100万接種当たりでは約3〜6人という数値でほぼ同等です。そして、そのうち2例(14歳女性と42歳女性)がワクチンと死亡との因果関係が否定できない(α判定)とされました。詳細は厚生科学審議会資料の資料1-3-1、1-3-2に記されています。

 逆に言えば、ほとんどの死亡症例が因果関係の評価は不能(γ判定)と帰結されています。資料中には1例1例に死亡状況のサマリがあり、評価不能の判定は、ほぼ、妥当と思います。日本の年間死亡数140万人前後ですから、確率的にはざっくり10万人が死亡1カ月以内にワクチンを打っているはずで、そこから考えればこの報告数は逆に少ないとも思えます。

 ただし、評価不能とは、ワクチンとの関連が否定されてはいない状態でもあります。死因となった疾患にワクチンがどの程度関連したのかが定量できない、とも言えます。当事者では無いので何とも言えませんが、詳細な病理解剖が全例に施行されていれば、α判定に追加される症例が存在した可能性は否定しきれません。

 これらのデータを踏まえた上で、日本の厚生科学審議会の議事録では「安全性において、重大な懸念は認められないという評価」で「異議無し」としました参照)(ここまでデータをそろえたなら、閣議で宣言すればいいのにな、と少し思いました)。

 アメリカ(CDC)のワクチン接種死亡見解に対する見解も同様のようです(こちらのサイトのScientific Publications about Death following COVID-19 Vaccinationの項参照)。「一般論ではそれでよい」と理性では思います。

 それでも、ワクチン接種の実行犯である私たち現場の医師には、これらの死亡症例をありのまま、真摯に受け止める義務があります。重大な副反応を見逃さないことと、ワクチンの負荷に耐えられない可能性のある人への漫然とした接種推奨を行わないこと、この2点を個人的には教訓としたいと思います。

 次に、ワクチン接種後に観察された重大な副作用の報告です。有効性の報告に比較して少数ですが、論文やレビューが存在します。心筋炎については「「それでもコロナワクチンは怖い」という方と一緒に考えたい、11の臨床課題」で紹介しましたので、今回は神経系についての報告を紹介します*1)、*2)、*3)

*1)参考リンク、*2)参考リンク、*3)参考リンク

 数は圧倒的に少数ですが、脳静脈洞血栓症、横性脊髄炎、ベル麻痺(まひ)、ギランバレー症候群、多発性硬化症、脳脊髄炎、末梢神経障害、急性脳症などの比較的重篤な神経疾患がワクチン接種後に発生したという報告がまとめられています。

 コホート研究ではなく症例報告のまとめですので頻度は不明です。考察では「重篤度は無視できない」が、「現状ではワクチンから得られる利益が優先されるだろう」としています。ワクチン否定派が読んだら「やはり危険だ!」と結論づけそうですが……。

 ワクチン否定派が時々持ち出す抗原原罪参考1や、参考2参考3などなど)についてですが、やっと少数ながら実例の報告がでてきました。

 COVIDをキーワードとして検索される25930論文のうち、original antigenic sin & COVIDでは33件がヒットしました。抗原原罪はインフルエンザ不活化ワクチンで報告された現象で、「ワクチンを接種した後に、抗原が変異したウイルスに感染すると、そのウイルスに対する抗体産生がうまくいかない」というものです。

[江端コメント]:要するに、『ワクチン接種をすると、その後の変異株に対抗しにくくなる』ということです。

 報告されている論文、文献を全て読んだわけではないですが、ワクチン開発初期に「抗原原罪が起こる可能性があるよね、気を付けなきゃね」という注意喚起がちらほらあり、その次に「新型コロナの不活化ワクチン接種症例においては、インフルエンザ不活化ワクチンと同様に、抗原原罪と思われる現象が少数見つかったよ」と報告があり、そのスキマに「今後のワクチン開発でもこの現象を忘れちゃダメだよ」という論調での記事がでる、という雰囲気です。

 今までのところはmRNAワクチンにおいて抗原原罪が明確な脅威をもたらす状況は確認されたことは無いようです。日本からは、広島大学から「抗原原罪はなかったよ」いう報告も出ています参考)。

 ちなみに、上記で抗原原罪が確認された「不活化ワクチン」は多くが中国製、ロシア製なんですよね……。純粋に不活化ワクチンよりmRNAワクチンが抗原原罪には有利なのか、それとも政治的なナニかが介在しているのか……陰謀論ではないですが、正直分かりません

 ついでに、以前取り上げた抗体依存性増強減少(ADE: Antibody-Dependent Enhancement)*)ですが、こちらも追加報告は少なく、レビューを含めて抗原原罪よりも少ない23論文が報告されているのみ、かつ、報告も減少傾向でした。

関連記事:「「それでもコロナワクチンは怖い」という方と一緒に考えたい、11の臨床課題

 ワクチン接種拒否の根拠を探してみると、福音となるかもしれない論文が臨床医学の分野で最も権威のあるランセット誌に掲載されましたのでご紹介します。

 ひとことで乱暴にまとめると、「1度新型コロナに感染したら、それはワクチン接種の代わりになるんじゃないかな?」という疑問に対して考察した論文で、方法論としては「感染後に免疫がついたよ、経過を追ったよ」という報告を片っ端から集めて再集計、再解析したメタアナリシスです。

 結果は、感染による免疫獲得によって、感染後40週目までの重症化予防効果は約90%と、ワクチンと遜色のない結果でした。再感染予防効果については、対オミクロン株では5割弱とやや低く感じますが、ワクチンも9カ月目を過ぎて1年を経過するころには、感染を予防する力は急激に低下します。考察として「既感染者についてはその感染時期によってワクチンを打つか、打たないかを選択することを検討してもよいだろう」とまとめられていました。

 この考えに基づいて「年に1回新型コロナに感染すればそれがある程度はワクチンの代わりになる」という認識が多数派となれば、マスク着用もそれに伴ってなくなり、結果として日本人のほぼ全員が年に複数回新型コロナに感染する世界が来る可能性も、否定はできません

 個人的には、地味に高い高齢者における死亡率、Brain fogを含むLong COVIDと呼ばれる後遺症の存在*1)、(人によっては)インフルよりもキツイ臨床症状、抗原原罪や抗体依存性感染増強(ADE)*2)の証拠の少なさなどなどを総合し、先日6回目のワクチン接種を完了しました。これまで通り、39℃の熱が2日間出ました。毎回なので、もう、諦めています。

*1)関連記事:「「コロナワクチン接種拒否」に寄り添うための7つの質問
*2)関連記事:「「それでもコロナワクチンは怖い」という方と一緒に考えたい、11の臨床課題

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