日本ではきっちり2020年に始まった、「新型コロナ史」。さまざまな情報が錯綜し、何を信じてどう行動すればいいのか分からないまま3年間以上を過ごし、2023年5月、ついに日本でCOVID-19の扱いが「5類感染症」に移行しました。今回、コロナの感染が日本で始まった当初から、感染拡大やワクチンについてさまざまな考察を行ってきた「エバタ・シバタコンビ」が、5類移行をへて、これまでの考察を振り返り、当初の予測の「答え合わせ」を行います。
これまで、シバタ先生 ―― 轢断(れきだん)のシバタ*)先生と私(江端)で、「新型コロナウイルス感染症」について、7つのコラムをリリースしてきました。
*)「1/100秒単位でシミュレーションした「飛び込み」は、想像を絶する苦痛と絶望に満ちていた」に出てくる、「轢断のシバタ先生」です。
シバタ先生とは、以前から、『新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後』に、これまで私たちが執筆してきたコラムを総括しましょう、という話をしておりました。総括というのは、ひとことで言えば「答え合わせ」「自己採点」です。
新型コロナウイルス感染症の5類感移行は、2023年5月8日に決定されて、現在に至っております。しかるに、総括コラムのリリースがこれほど遅れたのは、私がよけいなことを始めて(社会人大学に入学して)、かつ、EE Times Japan編集部の担当も地獄のような量のタスクに追われているため、絶望的に時間がなくなったからです。
シバタ先生と私は、いかなる圧力も受けることなく、そしてどの権力に忖度することもなく、自分たちの良心と若干のユーモア、そして、自分たちの技術と能力のみを頼りに、執筆を行ってきましたが、5類移行となった今の時点から見れば、
―― かなりの頻度で、デタラメやウソも書いてきたハズだ
という、強い確信があります(筆者のブログ)。
というか、人類史上、初めて登場する、世界中をこれだけ巻き込んだ致死率の高い疫病に対して、その場で対応をしなければならなかった ―― これは、政府も会社も、私たち個人も同様でした。
どこの組織の、誰の情報を信じればいいのか ―― 誰にも分かりっこない暗中模索が続いた3年間でした。3年の間に「多くの人が助かった」とも言えますし、「多くの人を亡くした」とも言えます。そして、この災禍が終わっているのかどうかも分かりません。
シバタ先生と私は、『私たちは、その時点における情報と現場を見ながら、一生懸命に考えた』と今でも自信を持って言うことができます。しかし、それが、必ずしも正しい情報であったとも限らないし、他の人を助けたことにはならなかったかもしれないことも知っています。
特に、エンジニアとしての私の立場で言えば、例えば ――原発(原子力発電所)の『安全神話』が、まったくのデタラメやウソだった ―― ということを知っています。そして、そういうことが、これからもずっと続いていくのだろうと思います。
「東京電力福島原発事故調査・検証委員会(参考)」と同じように、「シバタ-エバタ 新型コロナ関連コラム 調査・検証委員会」のようなものが開催されて、シバタ先生と私が、公聴会で質疑されて、批判される機会があれば良いのですが ―― まあ、そういうことをやってくれる組織は存在しませんでしたし、これからも登場しないでしょう。
誰もやってくれないなら、私たちが、自分たち自身で「シバタ-エバタ 新型コロナ関連コラム 調査・検証委員会」を開催するしかありません ―― つまり、総括です。
これまで、私は、シバタ先生からさまざまなお話を伺ってきたのですが、その中でも、以下の2つは忘れられない内容でした。
(1)ワクチン接種は、全員接種がゴールではなく、ワクチン接種を希望する人全員が接種を終えた時が、事実上のゴールである → ワクチン接種を忌避する人が、一定数存在することは最初から折り込まれているため
(2)「5類移行」は、医療関係者の間では、「事実上のパンデミックの終結」とみなす → ウイルスの毒性が、通常の風邪、インフルエンザと同じレベルと取り扱えるため
特に、上記(1)については、かなり衝撃を受けました。致死率が異様に高かった初期の新型コロナウイルスが猛威を奮っていたころ、マスク推進派とマスク否定派、そして、ワクチン推進派とワクチン否定派は、憎悪を剥き出しにしてネットで誹謗中傷を繰り返しておりましたが ―― そういう大衆感情も含めて、「”全体としてのワクチン接種の完了”という考え方」があることに、正直驚きました。
「新型コロナ感染の終わり」などというものが、「風邪またはインフルエンザの撲滅」くらい不可能であることは分かっているのですが、医療関係者の間で、この「5類移行」というのが一つの区切り(というか「けじめ」)であると知って、『そういうものなんだー』と、しみじみと思ったものです。
本総括に際して、「新型コロナ年表」を作成してみました。みなさんも、この3年間を思い出してみてください。
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